今回のサーベイは、年商500億円以上で上場企業と未上場の企業628社から回答を得てまとめられた。それによると、SAMの体制整備については、「すでに取り組みを始めている」と回答した企業が66%に達している。「取り組む予定がある」と答えた企業を加えると83%にのぼっており、SAMの重要性に対する認識は高かった。(取材・文/谷畑良胤)
重要性は認識するものの…
石川県庁や奈良市役所、北海道庁などの公共機関や一般企業でも、ソフトのライセンス違反が相次いで発覚し、不正使用による罰金や賠償、訴訟などを恐れてSAMに取り組む風潮ができたことが影響しているようだ。
あずさ監査法人の薩摩貴人・ビジネスアドバイザリー事業部マネジャーは、「08年のサーベイと比較すると、SAMに取り組む企業は、わずかに増えた。最近の大手ソフトメーカーによる監査が影響して、ソフトウェアの棚卸しを実施して、SAMに目覚めた可能性がある」と分析する。
SAMに関しては、ここ数年で、SAM運用の適正化を組織的に行うための国際標準規格「ISO/IEC19770-1」と「ISO/IEC19770-2」や日本工業規格、ソフトウェア資産管理コンソーシアムによるガイドライン策定など、この10年間で管理基準が整った。しかし、こうしたソフトの管理プロセスなどを規程した標準規格を参考にして、ライセンス管理に取り組む企業は、前回調査と同様に5%にとどまった。SAMの重要性を認識しつつも、自社の独自方式でライセンス管理を行っている傾向がある。
SAMの「標準規格」を知らないだけでなく、“その場しのぎ”でライセンス管理をしている企業が多いことが、次の設問からもわかる。ソフト資産管理の整備状況に関する問いでは、70%の企業が「(体制整備に)すでに取り組んでいる」と回答。しかし、標準規格で規定している「利用ソフトの管理台帳の整備」は、「すでに取り組んでいる」が60%と、整備状況の認識に乖離があるのだ。
ライセンス管理体制はまだ不十分
SAMに取り組む必要性について、薩摩マネジャーは、ライセンス違反の不安を払しょくするだけでなく、「SAMに取り組むことで、コスト削減につなげられることを知らない」と話す。
実際、ライセンス管理体制を整備してことで、「ソフト関連資産の管理コストを削減できた」「ソフト購入費用を削減できた」という企業は、わずか20%にとどまっている。「コンプライアンス(法令遵守)上、ソフトライセンス違反の不安を払しょくできるという効果には気づいているが、目に見えるコスト削減効果を実感する企業は少ない」(薩摩マネジャー)のが実際のところだ。SAMに取り組んでいるとする企業は多いものの、実質的にはライセンス管理の改善につながっていないという実態が浮き彫りになっている。
一方、SAMを取り入れたことで、「コスト削減を実感している」という企業を分析したところ、「全社的なソフト関連予算の策定や導入ソフトの標準化、中長期的な調達計画の策定、購買部などによる集中調達が進んでいた」(薩摩マネジャー)という。ソフト資産の購入費用や管理コストの削減に成功する鍵は、全社的な取り組みにありそうだ。
あずさ監査法人は、今後、この調査結果をもとに、企業のSAM評価や体制整備の支援、運用支援の自社サービス「ソフトウェア資産管理(SAM)サービス」の提供を積極化する。薩摩マネジャーは「IT資産管理ソフト製品をもつツールベンダーなどとの連携も重要性を増している」と、日立情報システムやクオリティソフトなどと合同で企業向けセミナーを開始するなど、SAMの取り組みへの理解を促していく方針だ。