日本IBM(橋本孝之社長)は、2011年3月から順次、企業向けの新たなパブリック・クラウド・サービスを開始する。千葉県千葉市にある同社の「幕張データセンター」に、グローバルで統合化されたパブリック・クラウド・サービス基盤を構築。アプリケーションの開発・テスト環境やパソコン上の業務環境を仮想クライアントとして利用するサービスなどの提供を開始する。この基盤は、米国ラーレイ(RTP)のメイン・センターを中核として、北米・欧州など27か国で展開中。ユーザーは世界中のどこでも均一のサービスが受けられ、仮想サーバーごとにコンプライアンス(法令順守)やパフォーマンスの観点から、利用に際して最適なデータセンター拠点を選択することができる。(取材・文/谷畑良胤)
四つの国内向けサービス開始
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| 「2010年は、エンタープライズ・クラウドの実践元年だった。11年は、これを進化させる」と語る日本IBMの橋本孝之社長。 |
日本IBMは、2010年1月に全社を挙げてクラウドコンピューティングを推進すると宣言。それ以降の2010年度(10年12月期)は、日本市場でニーズの高かったプライベート・クラウドに力を注いできた。だが、外資系のクラウド事業者をはじめとしたパブリック・クラウド・サービスへの関心が高まっていると判断。10年11月29日には、IBMのグローバルでの経験やアセットをもとにサービスを標準化し技術要素を実装した幕張データセンターの基盤を使ったグローバル・スケールのパブリック・クラウド・サービスを開始すると公表した。
同社が日本国内で開始するのは、次の四つのパブリック・クラウド・サービスだ。(1)アプリケーションの開発・テスト環境を提供する「IBM Smart Business 開発&テスト・クラウド・サービス」、(2)パソコン上の業務環境を仮想クライアント環境として提供する「IBM Smart Business デスクトップ・クラウド・サービス」、(3)アーキテクチャ設計などを支援する「IBM クラウド・アプリケーション開発サービス」、(4)物理的なテスト環境をクラウドのソフト環境上にシミュレーションする「IBM クラウド・テスト・サービス」である。
いずれも、IBMが40年以上にわたる豊富な実績をもつ仮想化技術や、10年以上に及ぶ知見を重ねた完全な自己管理を実現する「オートノミック・コンピューティング」、ユーザーの需要を予測して設備やサービスのリソースを計画的に調達する「プロビジョニング」など、クラウドコンピューティングに必要な技術要素を利用しサービス基盤を実装した新設の国内データセンターから提供される。また、幕張データセンターには、民間企業世界最大級のセキュリティ研究開発組織「X-FORCE」の技術を活用した不正侵入防御装置を設置し、世界9拠点にあるセキュリティ・オペレーション・センターから24時間365日監視するなど、万全なセキュリティ体制を整えた。機密情報の漏えいなどを懸念してパブリック・クラウド・サービスの利用に二の足を踏むことの多い日本企業の厳しいサービス・レベル要求に応えている。
アプリ開発環境をスピーディに利用
2011年3月から順次提供開始するサービスのうち、「IBM Smart Business開発&テスト・クラウド・サービス」は、仮想CPUや仮想メモリ、仮想ディスクなど必要なIT資源をメニュー選択するだけで、10分程度の短時間でアプリケーション開発・テスト用の環境(仮想マシン)を利用できる。利用料金は、基本ソフト(OS)を含め、1.25GHzの仮想CPU/1個、仮想メモリ/2GB、仮想ディスク/60GBで1時間当たり10円と設定されている。
次に、「IBM Smart Businessデスクトップ・クラウド・サービス」は、日本IBMが用意したサーバー上の仮想デスクトップ(VDI)で、パソコン上のアプリケーションを動かすことができる。国内で市場が拡大するDesktop as a Service(DaaS)の利用に応じたサービスだ。デスクトップ仮想化環境を提供するシトリック・システムズの「Citrix XenDesktop」の「HDXテクノロジー」を搭載している。同サービスは、米国や欧州などのIBMデータセンターでも同一のサービスが利用できるので、国内のグローバル企業が世界展開するうえで最適なサービスといえる。利用料金は、仮想クライアント当たり2960円で提供する予定だ。
このほかにも、クラウド関連のサービス拡充を目指すITベンダーなどに対するパブリック・クラウド・サービスが用意されている。「IBMクラウド・アプリケーション開発サービス」は、その名の通り、クラウドを活用したアプリケーションの設計・開発やSaaS型モデルの提供を検討する企業に対して、ビジネス上の要件分析やアーキテクチャ設計などのほか、組織体制のあり方といった個々のロードマップ作成にまで踏み込んで支援する。計画フェーズからサービスが利用でき、約12週間の例で1500万円からの提供を予定している。
これに関連した「IBMクラウド・テスト・サービス」は、SaaS型サービス提供に際して、シミュレーションとパフォーマンステストができる。物理的なテスト環境を実際にクラウド上のソフト環境上で試すことが可能。早期にSaaSビジネスを立ち上げたいITベンダーには、利用価値の高いサービスだ。ソフト環境におけるシミュレーション初期評価の場合、約2週間で400万円で提供する計画だ。
世界展開企業は現地でも利用できる
日本IBMは、パブリック・クラウド・サービスの事業目標について、「目標値は定めていない。大きな収益を狙うよりも、将来のクラウドインフラ構築に向けての重要な取り組みと捉えている」(橋本社長)という。こうした基盤を整えて、実績をつくっていくことで、同社と関係性のあるITベンダーがIBMインフラを利用したサービス展開を急速に拡大させる方針だ。
なお、同サービスのグローバル規模での統合サービスを実現している中核拠点である米ラーレイ(RTP)のメイン・センターに、週刊BCNの記者が2月中に訪問して取材する。順次、紙面とウェブサイト「BCN Bizline」で、同社のアーキテクチャの真髄を報道していく。