ソフトバンクBB(孫正義社長兼CEO)は、2010年10月、モバイルソリューションビジネスを加速化させるために、モバイルインターネットソリューションインフォメーションセンター(MISIC)を設立し、本格始動に向けて着々と準備を進めている。スマートフォン市場はここ最近顕著な成長ぶりを示しているだけに、法人ニーズを取り込むことに躍起だ。既存パートナーに加え、新規パートナーとスクラムを組んで市場を深耕する構えである。(信澤健太)
“隠れたビジネス”をものにする
ソフトバンクBBが設立したMISICは、モバイルインターネットデバイスや関連するソリューションの開発・導入を支援する体制を整備したもの。狙いとするのは、(1)ソフトバンクBBの直販営業部隊の案件の協業提案、(2)パートナー企業のエンドユーザーへの協業提案、(3)MISICに問い合わせのあるエンドユーザーのパートナー企業への紹介──の3項目である。
つまり、エンドユーザーからMISICに寄せられた問い合わせや導入相談は、パートナー企業との協業で対応するわけだ。直販部隊は、パートナー企業との協業でエンドユーザーにソリューションを提案。「通信部隊の約200人がMISICを支える」(ソフトバンクBBの守谷克己・コマース&サービス統括CP事業推進本部AdvancedICT統括部ICTビジネス推進部モバイルインターネット推進課課長)という体制で臨む。
新たに設けたパートナー制度では、モバイルパートナーとデベロッパパートナーの募集が進めている。
モバイルパートナーは「回線販売に協力しているパートナーであることが前提で、当社はデバイスを販売する際のソリューション提案を支援していく」(守谷課長)。一方のデベロッパパートナーは、モバイル向けアプリケーションを開発するパートナーだ。参加するには、iPhone/iPadあるいはAndroidアプリの開発実績があり、Objective─C、Java、HTMLなどの開発者が2人以上いることが求められる。
ソフトバンクBBは、開発後の確認動作用として、デバイスを2週間貸し出すほか、地域ごとに共催セミナーなどを企画・実施したり技術者コミュニティサイトを運営したりする。
守谷課長は「携帯電話の販売パートナーを700社ほど抱えていて、モバイルパートナーに引き込むべく動いている」と話す。対照的に、デベロッパパートナーは「これまでほとんどつき合いのない開発企業を開拓している」という状況である。すでに、30社程度が参加する見込みだという。SIerは、モバイルパートナーとデベロッパパートナーの両方に該当する可能性があり、NIerはモバイルパートナーとなることを想定している。3月中に2種類のパートナー企業を合わせて、100社を募る計画である。
このほか3月をめどに、ポータルサイトを強化する予定で、エンドユーザーからの問い合わせを受けて、パートナー企業に案件を紹介できる仕組みづくりを急いでいる。サイトでは、導入相談のリストやモバイルソリューション、導入事例などを掲載する。ソフトバンクBBの片山弘一・コマース&サービス統括CP事業推進本部AdvancedICT統括部統括部長は「もちろん問い合わせがあれば対応するが、まずはサイトに来てもらって事例やアプリが確認できるようにしていくつもりだ」とサイトの位置づけを説明する。
守谷課長は「ソフトバンクはデバイスと回線の販売に特化していて、ソリューションの提案ができていなかった。しかし、エンドユーザーからすれば、業務改革や投資対効果に結びつかなければモバイルの利用は進まない。アプリケーションやネットワーク、セキュリティを販売できる環境が必要だった」と反省を口にする。MISICを起爆剤に、“デバイス提供だけでは終わらない”ソリューションビジネスの拡大を目指す。
MISICの商流
表層深層
ソフトバンクBBのモバイルインターネットビジネスは、デバイスと回線の販売を主力としてきた。デバイスの販売を担ってきたパートナーは、ソリューションの提案が苦手。SIerなどは「モバイルは本当にビジネスになるのか」という疑念を抱いていたという。
ソフトバンクBBの守谷克己課長は、「SIerはシステム構築をビジネスとしているので、デバイス販売のインセンティブをなかなか受け入れにくい面がある」と説明する。しかし、ユーザー企業からは業務ニーズに合致したアプリケーションの開発や、セキュリティ上の不安、社内システムとの連携を支援してほしいと望む声があがっている状況だという。また営業先は、総務部門からIT部門に変わってきており、「PCと同様の運用・管理が求められている」。
デバイスの利用は“目に見えるビジネス”だが、“隠れたビジネス”をものにする必要があるとする。その提案内容は、(1)アプリケーションの開発企業やツールの紹介、(2)セキュリティベンダーとの協業による情報提供や接続検証環境の提供、(3)ラインアップを強化したパッケージやプロダクトの販売、(4)DB接続ツールなどの紹介、(5)運用管理ソリューションの取り扱い──などである。
豊富とはいえないまでも、商材は追加してきた。iPhone 3GSを1700台導入して、「A'OMAI」を活用する横浜商科大学のような事例もある。MISICの設立と組織強化によって、本格的にソリューションビジネスに乗り出す態勢を整えたことになる。(信澤健太)