IT投資の復活を期待した2010年。どん底を味わった09年に比べれば上向いたものの、期首に立てた計画値の達成は「予想以上に難しい」。それが、2010年末のIT業界内で共通した声だった。「この先以降も不透明」との見解も一致している。踊り場を抜け出せないIT業界。打開策は何か。この特集では、SIerやITサービス企業のなかでも中堅クラスのIT企業に焦点を当て、厳しい環境にあっても、それを乗り越えようと立ち向かうIT企業の姿を追った。(取材・文/木村剛士)
【協業編】SaaS事業、地方開拓でアライアンス
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NECネクサソリューションズ 森川年一社長 |
情報システムが高度化・複雑化し、一社単独では顧客の要望に応えられなくなり、弱点を補完する協業体制の構築はますます欠かせなくなった。飽和した国内IT産業のなかでも潜在需要があるといわれる中堅・中小企業(SMB)の需要を効率よく開拓するためにも、「アライアンス」はキーワードとなる。「ヒト・モノ・カネ」に次いで、「パートナー」が重要な要素となる状況下で、協業強化に向けての戦略を展開するSIerを探った。
2009年10月1日から、NECグループでSMB向けビジネスのけん引役を務めることになったNECネクサソリューションズ(NECネクサ)。従業員数は約2500人、年商規模は1000億円(10年3月期)で、長期的に2000億円まで引き上げる計画を進めている。まずは、東京・大阪・名古屋地域の中堅企業にターゲットを絞り、直販でビジネス拡大を推進している。
NECネクサの協業戦略は、この直販で攻める東名阪の中堅企業市場以外で機能するものだ。協業戦略は大きく分けて二つがある。
一つはNECの支社・支店との連携。NECネクサが直販で攻める東名阪以外のユーザー企業は、基本的にNECの支社・支店が担当する。ただ、大企業を相手にするNECがもつ製品・サービスは、年商規模が小さい企業が多い地方にマッチしないケースは多い。そこで、森川年一社長は地方のNEC支社・支店に、NECネクサがもつ中堅・中小企業向け商材を提案するため、自ら全国を行脚している。自社内に「中堅事業戦略室」という専門組織を設け、NECの役員3人もメンバーに加え、地方市場開拓の戦略を練っている。
もう一つが、NECの販売店約370社とNECネクサが独自に組織している協業企業約50社との連携だ。このアライアンスでNECネクサが進めたいと考えているのがSaaSビジネス。主に中小企業に対して、NECおよびNECネクサがもつSaaS、加えてパートナーがもつ製品と組み合わせたSaaSをパートナーを通じて販売できるような体制づくりに動いている。顧客数が多い中小企業に、単価が安いSaaSを売るためには、自社の営業担当者だけでは事実上不可能と判断した結果だ。
国内IT産業は14年まで0.5%増
伸びない市場で求められる変化 2008年秋に始まった世界同時不況の後、09年は年間を通じてどん底を味わった国内IT産業。2010年は、あまりにも落ち込んだ09年と比較すれば回復したものの、計画通りとはいかなかった。そして2011年が到来した。
図に示したのは、IDC Japanが10年12月に発表した主要産業別でみたIT投資の前年比成長率予測だ。10年は09年に比べて回復したが、それ以降は、多少のばらつきはあるものの、総じて横ばい、伸びても数%レベルであることがわかる。IDC Japanは、国内IT産業市場規模の09年・14年の年平均成長率を0.5%と予測した。全体のパイが1%成長にも及ばないマーケットで、あと4年間ビジネス展開しなければならない。暗い冬が国内IT産業を待ち受けているのだ。
「限られた市場で他社から奪う」「売り上げは横ばいを覚悟でローコスト経営を図る」「新たな商品・サービスを創出する」「海外に打って出る」「M&Aで規模を拡大し相乗効果を図る」などが成長の要因として考えれられる。いずれにしても「過去の延長」では生き残りは難しい。
・社内改革編・新ビジネス創出編・海外市場開拓編・協業編