商社系大資本の情報サービス分野への関与が強まっている。住商情報システムが独立系大手CSKを合併すると発表し、双日は有力ホスティングベンダーであるさくらインターネットへのTOBを実施。また、兼松は兼松エレクトロニクスや日本オフィス・システム(NOS)と連携を進めるなど、情報サービス分野における商社の動きが活発化。商社系大資本はクラウドやグローバルITサービス、スマートコミュニティに強い関心を示す。(安藤章司)
大手商社が動き始めた背景には、急速なクラウド化やグローバルITサービス、スマートコミュニティの三大IT需要が顕在化しているからだ。いずれも大資本による先行投資や仕組みづくりが必要で、合併されたり、傘下に入る側にとっても大手商社の資金力や信用力は心強い味方となる。国内経済全体をみても震災復興や景気回復への気運が高まっており、IT分野への資本注入で、業界再編の地殻変動が再び巻き起こる可能性がある。
クラウドビジネスで優位性を発揮するには、データセンター(DC)インフラの整備が欠かせない。クラウドの分野でリードするAmazonやGoogleは、自らコントロールできる巨大なDCを複数もっていることが競争力を下支えしている。今年2月に株式公開買い付け(TOB)方式でさくらインターネットの子会社化を発表した双日は、さくらインターネットがもつ先進的なDC基盤がクラウドをはじめとするITアウトソーシング分野で不可欠であると判断した。子会社化によって、双日グループとのより密な連携による相乗効果を高めるものとみられる。
また、今年10月をめどにCSKと合併する予定の住商情報システムの中井戸信英会長兼社長は、「グローバル市場への進出」を掲げる。グローバルITサービスを提供するには一定規模以上の受注体力が必須であり、およそ1年半の交渉を経てCSKとの合併を決めた。2010年度(11年3月期)の両社単純合算ベースの連結売上高は約2800億円の見込みで、業界トップのNTTデータに次ぐ第2グループ“年商3000億円クラブ”への仲間入りを果たす見通しだ。住商情報システムが、グローバルカンパニーである親会社・住友商事の情報システムを支えている観点からすれば、「グローバルITサービスを提供する基盤はすでにある」(住友商事の大澤善雄取締役常務執行役員)と、合併によって規模拡大を図る新会社に期待を寄せるのは自然な流れだ。
合併に応じたり、グループ傘下に入る側も、抜き差しならない難しい状況に置かれているケースが少なくない。CSKは、事業多角化を目的とした不動産や金融投資で甚大な損失を出し、本業の情報サービス分野でも従来型の受託ソフト開発モデルから十分に抜け出せていない印象が否めない。受託ソフト開発がメインだったかつての独立系SIerのアルゴ21の太田清史社長(当時)は、合併先をキヤノングループに選んだ理由として「グローバルカンパニーであること」を挙げた。CSKも、住友商事グループに入ることでグローバルITサービスへの足がかりを掴む。
さくらインターネットは、本業のクラウド/ホスティング事業の強化を目的に、現在、北海道石狩市に最大で約4000のサーバーラックを格納できる巨大DCの建設を進めている。2011年秋に竣工予定の第一期棟の工事で37億円、全8棟からなるDC全体の建設にかかる費用はざっと200億円規模と見積もられている。双日はこれまでもさくらインターネットの筆頭株主だったが、今回のTOBで子会社化が完了すれば「信用力が増して、資金調達が容易になる」(ホスティング業界関係者)とみる向きが多い。
クラウドやグローバルITと並んで有望視されているスマートコミュニティにおいても、大資本の力が求められる。兼松グループのIT部門に属し、日本IBMのソリューションプロバイダでもある日本オフィス・システムの尾嶋直哉社長は、「都市をまるごとスマート化するプロジェクトは兼松グループや日本IBMとの連携が不可欠」と判断している。国内市場が成熟に向かい、かつ数少ない成長分野がいずれも大資本が有利に働く状況下で、業界再編が再び加速する可能性が高い。
大手商社のIT分野における直近の相関図
表層深層
カネ、人、モノの動きに敏感な商社が、IT分野への投資を活発化させるのは、クラウドやグローバルITサービスなど情報の普及に伴って、サービス市場が再び活気づいていることを裏付ける。とはいえ、国内市場そのものは成熟し、ソフトウェアの受託開発やハードウェアの販売といった従来型のビジネスの延長線上には大きな成長はもはや見込めないというのも、また事実である。
ソフト開発やハード販売ならば、納品後の回収代金をすぐに人件費や仕入れ代金にあてることができたが、クラウド型サービスでは月額課金が基本であり、原則としてデータセンターなどの先行投資分の回収に時間がかかる。グローバルITサービスは、一定規模の経営基盤がなければ世界の大手ベンダーと互角にわたりあうことなどできない。
スマートコミュニティのビジネスに至っては、外国政府との太いパイプづくりが欠かせず、総合的な観点で都市設計を行うスキルが求められる。複数の特色あるベンダーが絡むスマートコミュニティビジネスで、全体のとりまとめ役として商社の果たす役割は大きい。
住商情報システムとCSKの今回の合併により、商社系大手SIerの伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)とほぼ肩を並べる年商規模となる。リーマン・ショック後の不況で、経営基盤が弱体化し、クラウドなどのビジネスモデルの変化に適応しきれないSIerは、大資本による再編の動きに巻き込まれることも考えられる。(安藤章司)