日本ヒューレット・パッカード(日本HP、小出伸一社長)が、パートナーとの協業ビジネスで動く。企業買収を通じて増大した日本HPの製品群を多く取り扱うことができ、先進的な情報システムを構築できる大手IT企業を選定して、戦略的な優遇条件を提示してパートナーとして囲い込む。加えて、全国のSMB市場を掘り起こすため、SMB(中堅・中小企業)に強い新規パートナーを開拓をする。役を担うのは、パートナーとの協業施策を推進するパートナービジネス統括本部のトップ、玉利裕重統括本部長だ。(木村剛士)
日本HPのパートナービジネス統括本部は、今年度の期首にあたる2010年11月に発足した組織で、SIerやITサービス会社、ディストリビュータなど、IT企業との協業による間接販売を推進する中核部隊だ。ミッションは、ハードやソフト、サービスなどジャンルを問わず、IT企業経由で間接的に日本HPの製品をユーザーに販売することにある。
パートナービジネス統括本部の傘下は、IT企業各社との連携や支援を担当する「パートナー営業本部」と、UNIXサーバーやストレージなど、各製品を拡販するための施策を企画・推進する「ビジネス開発本部」に分かれる。統括本部の人員は約100人(契約社員も含む)。この組織を仕切るのが、ストレージベンダーのEMCジャパンから復帰した玉利裕重・パートナービジネス統括本部統括本部長だ。
玉利統括本部長が描く戦略は大きく分けて二つある。一つが大手IT企業のリクルート、そしてもう一つがSMB市場の開拓だ。
大手IT企業のリクルートとは、サーバーやストレージ、ネットワーク機器など、IT製品のジャンルを問わず日本HPがもつ複数の製品群を取り扱うことができ、大規模で先進的な情報システムを開発・運用できるIT企業と手を結ぶことである。日本HPが提唱する次世代情報システムのコンセプト「HP Converged Infrastructure」を具現化できるパートナーの発掘ともいえる。
パートナーを広く募るつもりだが、このカテゴリに位置づけられるIT企業は、かなりの技術力と人員を擁し、大手のユーザー企業との取引実績が多数あることが求められる。国内に数十社しか存在しない。そのため、水面下では、日本HPがその力があると判断したIT企業を選定して、協業プランを提示して取り込むつもりだ。「1年間で10~15社のパートナー企業を集めたい」と玉利統括本部長は方針を語る。「支援制度も見直して、技術だけでなく、営業面でも手厚く支援する」という。
そして、もう一つの戦略であるSMB開拓では、SMB向けシステム構築やITサービスの提供で実績が多いIT企業を囲い込むつもりだ。玉利統括本部長は、全国のSMBに向けて拡販するために、まずSMBに強いIT企業を大きく3区分にした。
その一つは、全国を網羅する支社・支店を保有していてメイン顧客をSMBとする大手SIer、二つ目は各地域に存在する地元の有力IT企業。そして三つ目は全国に点在する中小規模のIT企業だ。大手のSIerに関しては、日本HPが直接交渉し、地域の有力IT企業については日本HPの営業所と連携して掘り起こす。一方、中小IT企業との協業では、企業数が多いため、日本HP単独で協業提案するのではなく、大手ディストリビュータと連携することで、多くのIT企業との協業体制を組む。これらのパートナーに販売してもらうのは、大手IT企業との協業モデルとは異なり、サーバーなど単一製品の販売から取引を始め、順次取り扱う製品ジャンルを増やしてもらう考えだ。
一連の施策を推進するため、日本HPはパートナープログラムを刷新し、IT企業に向けて順次告知。4月から本格展開する。玉利統括本部長は、「日本HPとつき合いがあっても、特定部分の製品しか取り扱ってくれないパートナーもあれば、SMBや地方のマーケットでは、まったく取引がないIT企業もたくさんある。それだけ伸びる余地があるということ」と強調。多くのIT企業が新年度を迎える4月から一気呵成に攻めていく。

玉利裕重統括本部長
パートナービジネス統括本部の陣頭指揮を執るキーマンで、チャネルの開拓に強い
表層深層
NECや富士通といった国産メーカーや、外資系の日本IBMに比べて日本HPの協業網は弱い。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)など、特定の大手SIerとの強固な連携体制があるのは日本HPの強みだが、NECや富士通、日本IBMのように多くのIT企業と協業体制を構築しているとは言い難い。それを玉利統括本部長は変えようとしている。
「日本HPが提唱する『HPConverged Infrastructure』は、率直にいえば、これまでは概念ばかりが先行して、製品・ソリューションが追いついていない部分があった。ただ、クラウド型ストレージサービスの3PARなど、複数の企業買収を通じて、それを具体化できる材料が揃ったと実感している」と玉利裕重統括本部長は語る。パズルのピースが揃って、ようやくIT企業に『HP Converged Infrastructure』提案できる状況になったという主張だ。
一方で、こういう感触も得ている。斉藤一也・パートナービジネス統括本部ビジネス開発本部本部長によれば、「リーマン・ショック以降、競合会社の製品の販売ボリュームが多かったIT企業からの引き合いが強まっている」という。景気が後退したことで、事業のテコ入れを模索するIT企業が、付き合うメインメーカーを変えようとしているという読みだ。
いずれにせよ日本HPには好材料で、それがあるからこそ、今が攻勢に出る時期と判断したのだろう。