メーカーが、ハードとソフトを全国のユーザー企業・団体に売るためには、IT企業をパートナーとして取り込むことが欠かせない。自社の営業担当者を通じた直販だけでは限界があるためで、いかに多くのパートナーをつくり、深い関係を築けるかが、シェアの多寡を左右する。
このパートナーづくりに長けているのが、NECや富士通といった国内のコンピュータメーカーだ。国産の安心感とオフコン時代から続く長い歴史が、全国のIT企業とメーカーの関係を強くした。しかし、外資系メーカーも、手をこまぬいていたわけではない。国内メーカーの流通網を崩すために、水面下で動いている。日本IBM、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、そしてデル。記者が注目した3社のパートナーづくり、間接販売網構築の最近の戦略を、『週刊BCN』の記事で振り返る。(木村剛士)
日本IBM、クラウドを売る流通・再販制度構築
日本IBMは、外資系IT企業のなかで最も広く強い間接販売網をもつ。1982年に日本IBMが主導して立ち上げた「愛徳会」は、IT企業との協業モデルの代表例ともいえる制度で、日本IBMのオフコン「AS/400」(現IBM PowerSystems)のシェアを伸ばす原動力になった。記者が最近の協業戦略で注目したのが、「ITサービスの流通・再販制度」である。
1年前、日本IBMは「サービス・オリエンテッド・パートナリング(SOP)」という新協業戦略を発表した。クラウドなどのITサービスをパートナーと共に売っていこうという動きだ。ITサービスは、メーカーとパートナーの業務の分担や利益の分配が難しい。ハードやソフトと比べると、再販モデルが築きにくいというのが、メーカーが苦労している部分だ。日本IBMは、この課題を「SOP」で打ち破ろうとしている。
クラウドの流通・再販モデル「SOP」スタート(『週刊BCN』2010年3月15日付 Vol.1325にて掲載) 日本IBMの採った方法は、従業員1000人以下の中堅・中小(SMB)のユーザー企業に対しては、日本IBMがITサービスを直接提供しないということ。日本IBMは、ITサービスを支えるハードやソフト、サービスをパートナーに提供し、パートナーがユーザー企業に魅力的なITサービスを提案できるように支援する。むろん、他のIT企業も同様のモデルを考案しているが、日本IBMほど大がかりに動いたケースはない。

SMB市場でのサービスビジネスの新チャネル
『週刊BCN』編集部では「SOP」の進捗を確認するために、2010年11月29日号から6号にわたる連載記事「日本IBMの『クラウド』が競争力を生む『大きく変わるパートナーリング』」を掲載した。「SOP」の陣頭指揮を執る岩井淳文パートナー&広域事業担当執行役員など、日本IBMのキーマンの考え方や、「SOP」に参加するパートナーの声を書いた。
<日本IBMの『クラウド』が競争力を生む「大きく変わるパートナーリング」>
1 プロローグ サービスを「売る」体制を構築せよ(『週刊BCN』2010年11月29日付 Vol.1360にて掲載)
2 「パートナー優先」を明確化(『週刊BCN』2010年12月6日付 Vol.1361にて掲載)
3 IBMはバリュー生む“黒子”役(『週刊BCN』2010年12月13日付 Vol.1362にて掲載)
4 もの言うユーザーともクラウド連携(『週刊BCN』2010年12月20日付 Vol.1363にて掲載)
5 IBMのパートナーはすでにクラウドへシフト(『週刊BCN』2011年01月03日付 Vol.1364にて掲載)
6 「協業パートナー」を活発化(『週刊BCN』2011年1月10日付 Vol.1365にて掲載) 4月スタートの新協業戦略、IT企業を囲い込む日本HP
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)には、4月に動き始めたホットな話題がある。約100人体制のパートナービジネス統括本部が、先進的な情報システムを構築できる大手IT企業と緊密な関係をつくろうと交渉をスタート。全国のSMBにアプローチするために、新規パートナーの囲い込みを始めた。その内容を、パートナービジネス統括本部のトップである玉利裕重統括本部長のインタビューをもとに、『週刊BCN』4月4日号で報じている。
パートナービジネス統括本部の新協業プラン(『週刊BCN』2011年4月4日号 Vol.1377にて掲載) 
パートナービジネス統括本部の玉利裕重統括本部長
日本HPには、パートナービジネス統括本部の施策以外にも、協業体制を構築するために打ってきた施策がある。その代表例が、ユーザー企業を東日本地域のSMBに限定して、パートナーを囲い込む施策だ。当時、東日本の営業を担当していた竹内英明執行役員が主導したもので、ISVとSIer、日本HPの協業で、ユーザー企業にITソリューションを販売しようとするトライアングル戦略だ。
“協業トライアングル”東日本で結実(『週刊BCN』2010年6月21日付 Vol.1338にて掲載) 後発のデル、3年前から間接販売強化に取り組み組織を増強
デルは、ウェブサイトで注文を受ける直販で伸びたメーカー。パートナーづくりは最後発で、動き始めたのは2008年の秋のことだった。創業者のマイケル・デル氏がCEOに復帰した直後の2007年秋に、全世界で間接販売を強化する戦略をスタート。日本法人も準備を開始し、2008年9月にIT企業の取り込みと、パートナーの支援を推進するパートナー統括本部を設けた。本部発足の後、初期のパートナー開拓状況を報じたのが、この記事だ。
デル 虎視眈々と間接販売網(『週刊BCN』2009年3月2日付 Vol.1274にて掲載) その後、定期的にデルに取材して情報をアップデートしてきた。パートナーに対する支援の充実や組織の増強など、取り組み状況を掲載した。
チャネル支援は第二ステップへ(『週刊BCN』2009年9月28日付 Vol.1302にて掲載)
他社から有力者集め間接販売部隊を強化(『週刊BCN』2009年12月14日付 Vol.1313にて掲載) デルは、2011年に組織を再編。「公共機関・大企業向けビジネス」「コンシューマ・SMB向けビジネス」「サービスビジネス」そして「パートナービジネス」の四つに組織を区分した。これはパートナービジネスを重視している表れで、今後さらに間接販売体制を強化する。
一般論としていえば、メーカーはさまざまなパートナー戦略を打ち出しても、それに即効性がないときに、手がけた施策を止める、または変えるケースが多い。そして、この繰り返しに疲弊してしまうIT企業は少なくない。短期で効果が出にくいチャネル支援を、どこまで地道に続けられるか。外資系3社は、各社各様の手法でIT企業との結びつきを強め、強固な間接販売体制を築こうとしている。引き続きみていきたい。