日本IBMは、2010年度(2010年12月期)にクラウドコンピューティングを中核とする事業体へと変貌を遂げた。企業内にクラウドを提供するプライベートクラウドにとどまらず、パブリッククラウドも立ち上げ、そのクラウド・サービスを「売る」体制も整えた。11年度以降は、「進化と深化」の年という橋本孝之社長に、次世代に向けた事業方針を聞いた。
クラウドの売り上げ比率を二ケタ以上へ
──日本IBMは、2010年当初からクラウドコンピューティングを中核とする事業体に体制を整えてきました。その進捗状況はいかがですか。
橋本 2010年は、クラウドを含めて新しい事業領域の開拓や営業体制を強化するなどの変革を行ってきました。2011年から始まる21世紀の第2デケード(次の10年)に備えて、さまざまなことを仕掛けた年でした。その大きな柱がクラウドです。われわれはクラウドを、「ITを活用して都市や企業を“賢く”する」という事業コンセプトである「スマーター・シティーズ」と「スマーター・エンタープライズ」を実現するためのツールとして捉えています。スマート事業を推進していくうえで、クラウド事業を重視しているのです。
実際、スマート事業は順調に進んでいます。「スマーター・シティーズ」の分野では、政府が支援する福岡県の北九州市八幡東区の東田地区で、スマート・コミュニティの実証実験に参加しています。この実証実験をはじめ、いくつか事業展開の事例が生まれてきました。2010年の当初とは違って、もはや「スマート」は言葉だけではなく、中身が伴って具体性が出てきています。
──御社は2010年1月、橋本社長の直轄組織として、クラウド専任組織を立ち上げました。クラウド事業の拡大に関しては、かなり自信をおもちのようですね。
橋本 そうですね。この1年間のクラウド事業での実績と、これからの展開を考えて、専任組織を立ち上げたことは大きかったです。2010年を通じて、クラウド・サービスを導入することで、コスト削減を図ることができるということだけではなく、セキュリティなどの面でもクラウドを使うことの価値をお客さまに訴求できたと思っています。
──パブリッククラウドのサービス開始は、米国と比べて10か月ほど遅れています。その理由は何でしょうか。
橋本 日本は、アメリカなどよりもプライベートクラウドの市場が盛り上がっているので、日本IBMとして、まずはプライベートクラウドの取り組みに注力してきました。プライベートクラウド分野においてある程度の実績をつくったうえで、2011年からはパブリッククラウドの事業も本格化させていきます。
──2010年度については、全体の売上高に占めるクラウド事業の貢献度はどの程度だったのでしょうか。
橋本 2010年の四半期ごとの推移を見ると、クラウド事業での売上高は、倍、倍、倍……という具合です。とくに、デスクトップクラウド(DaaS)や開発向けのクラウドが伸びています。ただ、母数が小さいので、売上高全体への影響は、まだそれほど大きくないというのが正直なところです。2011年度は、クラウド事業全体の収益を強化しつつ、売り上げに占める比率を、昨年度と同様に「四半期ベースで倍」というペースで上げていきたい。
──現時点では、クラウドの売上比率はどのくらいですか。
橋本 一ケタ台です。これを、2011年度中には、二ケタ以上にはしたいと考えています。
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