東日本大震災は、国内のIT産業にどのような影響をもたらすのか――。誰もが抱いていたその疑問に、調査会社のIDC Japanが一つの数値を提示した。同社は2011年の国内IT市場規模の成長率を、地震発生前は0.6%増とみていたが、震災を受けての数値を前年比4.5%減とした。IT企業は、より一層厳しい環境でのビジネスを迫られることになる。
突然の縮小を余儀なくされるマーケットに対して、IT企業はどのような手を打つべきなのか。日本のIT企業たちは、08年9月に起きたリーマン・ショックを経験している。09年と10年の2年間、IT企業のトップは、逆境のなかでさまざまな策を講じた。その筆頭が、海外マーケットへのチャレンジだ。この2年間の『週刊BCN』のトップインタビュー「KeyPerson」で、とくに海外市場に強い意欲を示していた有力経営者をピックアップした。その戦略から海外市場の可能性を探る。(木村剛士)
年商1兆円を超える国内最大手のSIerであるNTTデータ。2007年、そのトップに座った山下徹社長は、リーマン・ショック後、中期経営計画を見直して組織も改めている。NTTデータが業績拡大のために力を注いでいるのが、海外市場の開拓である。山下社長は09年末の取材で、海外展開について「勝つか負けるかではなく、世界に出て行かなければ生き残れない」と語り、海外展開に向けた強い意欲を示した。NTTデータは、国内No.1のSIerというポジションを維持しながら、成長エンジンを海外に求めたのだ。
NTTデータ 山下徹社長「エンジン全開で突き進む」(「週刊BCN」2010年01月18日号 Vol.1317に掲載) 
NTTデータの山下徹社長
その1年後、景気に若干回復の兆しがみえた10年末のインタビューでも、山下社長の考えはぶれていなかった。このときは、「2011年度(12年3月期)には、海外売上高を09年度実績の約2倍に増やす」と豪語し、さらにアクセルを踏む姿勢を鮮明にしている。
NTTデータ 山下徹社長「海外売り上げ倍増へ」(「週刊BCN」2011年01月17日号 Vol.1366に掲載) NTTデータ以外にも、海外市場に意欲を示している有力IT企業は多い。日立ソリューションズもその一社だ。日立ソフトウェアエンジニアリングと日立システムアンドサービスという日立製作所グループの中核2社が合併して生まれた同社の林社長も、海外市場に照準を合わせている。
日立ソリューションズ 林雅博社長「成長エンジンの役割を担う」(「週刊BCN」2010年12月06日号 Vol.1361に掲載) メーカー系列のSIerでは、東芝ソリューションも海外市場に強い関心を示している。今年1月1日付けで社長に就任した河井信三氏は、東芝の電力事業出身。その経験を生かして、電力制御なども含めてスマートコミュニティに応用できるIT技術を活用したビジネスの海外展開を語った。
東芝ソリューション 河井信三社長「スマートコミュニティに照準」(「週刊BCN」2011年01月31日号 Vol.1368に掲載) すでに海外市場で成果を出している企業もいる。ITホールディングスグループのTIS中国現地法人、天津TIS海泰インフォメーションシステムサービス(天津TIS海泰)は、2010年4月、同業他社に先駆けて、約1200ラックの自社データセンターを中国・天津市内に開設した。当初目標としていたのは、開業後1年間で200ラックの販売。だが、それを約半年前倒しのかたちで達成している。そのめどがついた頃、丸井崇総経理にロングインタビューを行った。
天津TIS海泰インフォメーションシステムサービス 丸井崇総経理「中国で悲願の金融案件を得る」(「週刊BCN」2010年11月15日号 Vol.1358に掲載) キヤノン(中国)有限公司も、着実に実績を積み上げている。小澤秀樹社長は、5年で業容を約5倍にまで押し上げた立役者。海外ビジネスの経験が豊富な小澤氏は、今の成長にさらにドライブをかけ、約7年の間に売り上げを5倍に引き上げ、「1兆円企業を目指す」と目標を語っている。めまぐるしく変化する中国市場で、勝ち残るための術を明かしている。
小澤秀樹社長「中国市場で1兆円企業を目指す」(2011年01月31日号 Vol.1368に掲載) 
キヤノン(中国)有限公司の小澤秀樹社長
国内IT産業は、地震発生前でも数%の伸びしか期待できないマーケットだった。それが地震の影響で、約5%のマイナス成長に。取り上げたIT企業は大手ばかりだが、中堅でも海外に進出する企業は増えている。もはや海外への進出は挑戦ではなく、生き残るために必要な戦略――それが、今回取り上げた経営者の考えを改めて振り返って痛感したことだ。