SaaSの再販は難しい──。そんな定説を覆そうと、日本事務器(NJC、田中啓一社長)がSaaSで間接販売網を築こうとしている。トレンドマイクロが提供するSaaS型セキュリティサービス「ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス(VBBSS)」に独自サービスを付加して商品化し、直販とともに再販するIT企業を募った間接販売も始めた。すでに5社と契約済みという。「VBBSS」を販売できる企業は現時点でNJCしかない。その強みを生かして、一気に販売網を築こうという算段だ。
「VBBSS」は、ウイルスや不正アクセスなどからパソコンを守る、中小企業をメインターゲットに据えたSaaS型のセキュリティサービスだ。NJCは、「VBBSS」にヘルプデスクサービスなど、複数の独自サポートを付加し、「ウイルスバスタービジネスセキュリティサービス あんしんプラス」として商品化した。5種類のメニューを用意して、最安モデルは月額500円で販売している。 「VBBSS」を販売するには厳格な基準がある。NJCはその審査をクリアした国内唯一のIT企業だ(5月12日時点)。NJCは、古くからトレンドマイクロのパートナーで、競合する製品は併売していない。トレンドとの関係は深く、「今回のサービスも設計段階から携わってきた」(西浪一雅・事業推進本部プラットフォーム事業推進部チーフ)。
「VBBSS」を販売したいIT企業は、NJCを通じて調達し、再販することになる。NJCと顧客ターゲットを同じくする富士通マーケティングが、「VBBSS」の取扱いを「前向きに検討している」(同社広報)という話があり、今後「VBBSS」を販売するIT企業が登場する可能性はあるが、現時点でのNJCの優位性はかなり高い。
NJCはこの立場を生かして、直販だけでなく間接販売も手がけようと計画した。今回のサービスに合わせて独自の間接販売制度をつくっている。パートナーは売るだけの仕組みで、その後のサポートはすべてNJCが行うかたちだ。大々的な告知はしていないものの、「すでに5社とほぼ契約を結ぶ段階にこぎ着けている」(高井俊彦・事業推進本部プラットフォーム事業推進部長)。売りたいと表明している企業は約20社あるという。ただ、高井部長は「“唯一の存在”がいつまでも続くわけではない。可能な限り早い段階で、50社以上のパートナーを獲得したい」と話している。
NJCは、主にNEC製品を活用したシステム構築に強い典型的なSIer。その同社は、3年ほど前から田中社長の方針で、クラウドに代表されるITサービス事業に本腰を入れ始めた。「Google Apps」のパートナーにも認定されている。今回のSaaSサービスの再販も、その大方針の一環だ。
SaaSの再販は、複数のIT企業がチャレンジしている。しかし、SaaSを再販してほしいIT企業と、従来型のSIビジネスを重視しがちな再販事業者となるSIerとの折り合いが合わず、成功事例は少ない。NJCは、最もSaaS型サービスに適しているといわれるセキュリティサービスにおいて、同社が唯一無二の存在であるうちに、成功の礎を築こうとしている。(木村剛士)