NTTデータ(山下徹社長)は、ITを駆使して都市インフラを改善する「スマートIT」の事業を体系化・組織化している。今年2月、NTTグループでスマートIT展開の方向性を定める「スマートビジネス推進室」を設立し、これまでの個々の取り組みを統括する組織づくりを進めている。中国など海外市場を中心として、マシン同士がネットワークを介して通信し合う「M2M(Machine to Machine)」の展開に本腰を入れる。(ゼンフ ミシャ)
NTTデータが今年2月に立ち上げた「スマートビジネス推進室」は、グループ経営企画本部経営改革推進部に直属しているチームで、現時点では5人のメンバーで構成されている。室長の吉岡功二氏は、「各事業本部のスマートIT関連の活動をまとめて、スマートに関するNTTグループ全体の具体的な方向を決めることが推進室の役割」と語る。NTTデータはこれまでにも、「M2M」をはじめとするスマートIT関連の分野において、個別のシステムインテグレーション(SI)案件ベースで受注していたが、個々の取り組みを統括することによって、今後、スマート事業の拡大をより体系的に狙っていくことになる。
NTTデータの戦略の背景には、アジアの新興国を中心として急速に進んでいる都市化やエネルギー消費の拡大がある。ここにきて、スマートITの草分けとして地球を“賢く”するコンセプト「Smarter Planet」を推進するIBMだけでなく、NECや富士通、NTTデータなど、大手ITベンダーが揃ってスマートIT市場の開拓に意欲を示してきた。各社は、世界での需要拡大と、原発事故/電力不足問題による国内での特需の兆しを受け、スマートITの技術基盤となるM2Mの開発・展開を加速しているところだ。
そもそも、スマートITのソリューションを実現するためには、IPネットワークを通じてマシン同士がデータを通信し合うM2Mが必要不可欠となる。
M2Mとは、自動車や自動販売機、各種センサーなどのマシン(機械)の間で情報を交換し、収集したデータを管理・活用することによって、オフィスや工場での節電対策や、交通の整理、物流の効率化など、都市インフラを改善することを追求するものだ。
大手ベンダーのなかでいち早くM2M/スマートITの本格展開に取り組んでいるNTTデータの吉岡室長は、「当社のM2Mソリューションは、プラットフォームだけでなく、プラットフォームに電力制御や次世代交通システムなどのアプリケーションを載せて、サービスとして提供していく。プラットフォームを、他ベンダーのアプリケーションも使えるようなかたちで実現していきたい」と語る。
NTTデータは、M2Mサービスを国内展開に限らず、「中国をはじめとした海外市場でも積極的に取り組んでいく」(吉岡室長)構えだ。NTTグループが世界各国にもつ海外拠点や子会社との連携を強化して、現地で、同社のM2Mソリューションを各都市の都市開発部門に訴求するという。NTTデータは、主要な海外市場である中国に加え、都市化が進んでいるアジア太平洋(APAC)諸国や南米、ヨーロッパなど、スマートビジネス推進室を情報を統括するベースとして、全世界でM2M/スマートITを展開していく方針だ。
吉岡室長は、今後、海外を中心に、M2M案件の獲得に向けてスマートビジネス推進室の動きを加速化。「現時点では、10まではいっていないが、数件の個別案件が動いている。売り上げに関しても、案件を綿密に攻めていけば、それなりに数字に反映される」として、M2M/スマートITを「期待できるビジネス」とみている。
M2M(Machine to Machine)事業の概要
表層深層
NTTデータは、M2M/スマートITに取り組む本気度を示すために、東京・豊洲にある同社の本社ビルから歩いて数分の場所に、M2Mソリューションを紹介するショールームを開設した。4月にオープンしたばかりで、広々としたショールームには、真新しい建物に特有の香りが漂っている。
NTTデータがスマートビジネス推進室を設立したのは今年2月で、東日本大震災の発生のほぼ1か月前だ。今回の震災や、原発事故による電力供給不足の問題の影響を受け、中国などと比べて規模が小さいといわれてきた国内のスマートIT市場においても、需要が高まりつつある。
吉岡功二室長は、「震災/電力不足の影響によって、日本のエネルギー業界が大きく変わってくるだろう。電力以外にも、今後、災害に強い都市インフラが求められるなど、都市開発にあたって、スマートなITが欠かせない要素となる」と、日本市場のポテンシャルを分析している。
M2Mを使って節電を図ったり、人間が行うあらゆるプロセスを効率化する有効な場所は「都市」だけでなく、もう少し単位を絞って、「家庭」でもある。電力を使うモノが数多い家庭でも、スマートITを活用すべきシーンがたくさんあるはずだ。
NTTデータの山下徹社長は、「今後、M2Mをより大きなビジネスに育てていくには、収益を得るための“仕組みづくり”が必要」とみている。スマートなITには、スマートな回収モデルが必要不可欠ということだ。