SIerの日本事務器(NJC、田中啓一社長)は、グーグルのオンラインアプリケーションサービス「Google Apps」を導入した。従業員約1000人が、メールシステムは「Gmail」に、グループウェアは「Googleカレンダー」に完全移行している。NJCは「Google Apps」の正規販売代理店であり、開発パートナーでもある。自社で導入・運用することで得られるノウハウを付加価値として、ユーザー企業への提案に生かしたいというのが、導入に踏み切った理由だった。
日本事務器
会社概要:1924年設立のSIer。全国に支社・支店、営業所を構え、47都道府県でITソリューションビジネスを展開する。従業員数は約1000人。中堅・中小企業(SMB)と医療・福祉機関、教育機関向けSIビジネスに強い。
システム提供会社:グーグル
サービス名:Google Apps
完全移行するための6段階のステップ
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| 移行プロジェクトの陣頭指揮を執った浅野利也シニアエキスパート |
NJCは9か所に支社、5か所に支店、15か所に営業所を構え、全国でSIを手がける中堅SIer。約1000人の従業員が各地に点在している。5年ほど前からは、顧客の要望通りにシステムを開発して納める従来型のSIだけでなく、クラウド事業に力を注ぐ。その一環として、「Google Apps」の正規販売店と開発パートナーになっており、「Google Apps」に独自のサービスを付加したクラウドサービス事業を手がける。
NJCは、先進的なITソリューションを提案する場合、「まずは自社で使い勝手を確かめる」(田中社長)がモットー。「iPhone」はその代表例で、顧客に提案できそうなデバイスやサービスが登場した場合、まずは自社に導入して検証する。今回の「Google Apps」の導入もその一環だ。自社の生産性向上だけでなく、クラウド事業に注力するなかで、「Google Apps」を拡販するための付加価値を見つけ出す狙いがあった。複数あるオンラインアプリケーションサービスのなかから「Google Apps」を選んだのは、メールやカレンダー、ドキュメント作成・管理など、複数のサービスの相互連携が容易な点と、大容量で高稼働率が保証されていることだった。
NJCは、今回の移行プロジェクトを推進するため、6段階のステップを踏んだ。メールとグループウェアという全従業員が毎日使うアプリだけに、「新たなインフラに移行すれば、混乱が予想される。だからこそ、細心の注意を払った」(浅野利也・経営企画部IT企画グループシニアエキスパート)。具体的な手順は上図に示した通りだが、50人→200人→500人→全員と段階的に移行を進めていったことがポイント。一度に導入すれば、操作説明やトラブル対応依頼が重なって混乱することが予想されたため、部分導入を積み重ねた。また、「ヘルプデスク」を社内に設置。トラブル対応を専門で行う人員を確保し、混乱を避けた。さらに、グループウェアの移行では、専用ソフトを自社で開発した。従来活用していたグループウェアのデータを「Googleカレンダー」に自動で移すための機能と、旧グループウェアにデータを入力した場合、自動で「Googleカレンダー」にもその情報が反映される機能をもつソフトで、このツールが「(移行に)大きな役割を果たした」(同)。
一方、「Google Apps」導入で懸念事項に挙がるセキュリティの確保では、IPアドレスで制限する方式を取り入れた。アクセスを許可するデバイスをIPアドレスで設定し、登録されていないIPアドレスをもつデバイスは社内・社外を問わずアクセスを遮断する方法をとった。一連の移行作業で2010年5月に、全従業員の移行が完了。導入後1週間を過ぎたタイミングで、従業員からの問い合わせはほぼなくなったという。
NJCは、「iPhone」「iPad」との連携、「Google Apps」上での社内ポータル構築、組織階層別のアドレス帳の追加など、さまざまな関連サービスを生み出した。情報共有のしやすさとモバイルワークスタイルの整備といった効果を得るとともに、顧客への付加価値を見つけ出した今回の事例。NJCにとっては一石二鳥となった。(木村剛士)

導入後に生み出した社内ポータルの画面
3つのpoint
・導入の主目的は販社として提案力を強めるため
・サービスの連携が容易な点がグーグルを選んだ理由
・混乱を避けるため、移行にはツールを自社開発