ケータイ市場が再び活気づいてきた。アップルiPhoneの独壇場だったスマートフォン開発に、遅まきながらも国内ベンダーが本格的に参入し始めたからだ。パナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズの主要国内ケータイメーカーが、Google系スマートフォン用OSのAndroid（アンドロイド）搭載機種の開発強化を相次いで表明。組み込みソフト開発大手SIerの富士ソフトやコアは、こぞってスマートフォン向け開発案件の受注に強い意欲を示す。

　「スマートフォン向け組み込みソフト開発に向かっている」（富士ソフトの白石晴久社長）、「スマートフォン、Android端末の開発案件の受注に力を入れる」（コアの簗田稔社長）と、久々の明るい話題に経営トップの表情も明るい。国産ケータイの海外進出の失敗と並行して国内市場も飽和、さらに経済危機やiPhone侵攻などで、主力だった“ガラケー”向けビジネスは大幅に落ち込んだ。

　だが、ここに一つ落とし穴がある。世界中のメーカーがAndroid準拠のハードや部品を開発していることを忘れてはならない。Windowsとパソコンの関係がそうであったように、グローバルベンダーが量産効果で安く供給し始めている状況下で、日本のメーカーが差異化を図る余地は、それほど多くはないはずだ。独自機能といえば、ワンセグや、NTTドコモやKDDI（au）のいささか時代遅れのiモードやEZwebといったガラケーならではの部分だろう。これをAndroidで動かそうとすれば、それなりの開発パワーが必要になる。SIerが再び潤うチャンスといえなくもない。

　国内メーカーが、国内の小さな市場を過剰に意識して、あれこれとガラケー機能を積んで、もっさりしたスマートフォンができあがったとしたら、iPhoneや韓国サムスン電子のGALAXY Sに果たして勝てるだろうか。カスタムアプリをつくり込みすぎて、価格が高騰し、OSのアップデートすらままならなくなるのは、企業向け業務システムでも同じ。だからこそWindowsやLinuxが普及し、SAPやOracleなどパッケージソフトが躍進した。

　組み込みソフトベンダーは、iPhoneにたとえるならiTunesに相当するソフトやネットサービス、そして広い意味でのプラットフォームの部分に注力すべきではないか。iPhoneに比べてAndroid端末の弱い領域でもあり、キャリアやハードメーカーに縛られない仕組みを独自に構築する姿勢とスキルが真の価値を生む。パソコン向け組み込みソフトが、オープンで高機能なOSやパッケージソフトの発達に伴って縮小したように、従来型の組み込みソフト開発もスマートフォン時代には、もはや通用しない可能性がある。（安藤章司）