富士通のパートナー企業との協業による中堅・中小企業(SMB)市場開拓を至上命題とする富士通マーケティング(FJM、古川章社長)。新会社の発足から約9か月が経過し、富士通系SIerやITサービス事業との連携強化について、新たな動きを始めている。来年度(2013年3月期)期首をめどに、富士通パートナーへの商品提供体制を変更し、富士通本体ではなく、FJMから販社に対して商品を卸す体制をとる。また、FJMの「パートナー支援制度」に参加する企業を、現状の2倍にあたる36社に増やすほか、パートナー支援組織も増強した。FJMを核とした富士通グループの販社網が、徐々に整備され始めている。(木村剛士)
「MAST」参加パートナーを36社に増強へ
 |
| 古川章社長 |
富士通マーケティング(FJM)は旧富士通ビジネスシステムズ(FJB)で、昨年10月1日に社名を変更し、新たな役割をもって再スタートした。主なミッションは、富士通のパートナー企業と連携体制を築き、SMB向けのIT製品販売とSI事業を伸ばすことだ。目標は2015年度(16年3月期)に売上高3000億円への到達。10年度の実績は1319億5400万円なので、約2・3倍に増やす算段だ。
達成のポイントは、同社単独でSMBに直販しながら、富士通のパートナー企業に富士通製品とFJMのオリジナル商品を供給し、パートナーが販売する体制をきちんと築けるかどうかにある。FJMはそれを想定し、富士通パートナーとの連携体制構築に「かなりの時間を費やしてきた」(古川社長)。それを今年度に入って加速させ、新たな施策を打ち始めた。
まず富士通製品の流通経路を変更する。従来、富士通との関係が濃いパートナーは、富士通からダイレクトにハード・ソフトなどを調達していた。これを、SMB向け製品に限って、すべてのパートナーはFJMから商品を仕入れるかたちにする。受発注業務を支える情報システムを開発中で、2011年度期首をめどに新流通体制に移行する。
そのうえで、とくに協業関係を密に取るパートナーを増やす。FJMは、発足と同時にパートナー支援プログラム「MAST」を立ち上げている。東名阪の有力パートナーに対して、パートナーが抱える課題や要望をヒアリングし、FJMがサポートできる部分などをすり合わせて、協業プランを個別に練り上げている。
パートナーからの要望としては、リード(見込み顧客)情報の提供があるという。これについては、FJMのパートナー支援部隊がリード情報を収集してパートナーに提供する取り組みをすでに始めている。リード情報の提供だけでなく、リード情報の収集方法のトレーニングをしてほしいという声や、営業拠点を複数もつパートナーからは全拠点で共通の問い合わせ窓口が欲しいという声が挙がっており、対応するための準備に入っている。
現在の「MASTプログラム」参加社は18社。これを今年度中に2倍の36社に増やす。古川社長は「地方のパートナーから意見交換をしたいといった要望をもらえるようになった」と、東名阪以外の地域にいるパートナーとの関係強化に意欲を示している。「数を限定しているわけではないが、一社ずつ丁寧に協業プランをつくっているので、時間がかかる」とも話しており、拙速にパートナーを増やす考えはない。
パートナー支援部隊も強化した。5月下旬に行った組織再編で、約110人体制のビジネスパートナー本部では、従来のアカウント営業担当者(特定パートナーの要望を聞いて支援するための専任スタッフ)部隊だけでなく、オファリング営業担当者(FJMが企画・開発した製品・サービスをパートナーに提案するスタッフ)を配置した。 当初の予定よりも1年遅れて発足したFJM。紆余曲折を経て誕生した富士通グループのSMB事業の中核会社は、徐々にではあるものの、着実に協業体制を固めている。
富士通マーケティングの歩み
表層深層
FJMは決して順調に立ち上がった会社ではない。今から2年ほど前の2009年5月21日、富士通はFJBの上場廃止と完全子会社化を発表。新会社とは明言してなかったものの、新体制への移行日は09年10月としていた。実際にFJBがFJMへと生まれ変わったのは10年10月のこと。ほぼ1年遅れているわけだ。リーマン・ショックによる経済環境の悪化など、外的要因もあったが、主な理由は、富士通パートナーの反発があったことだった。
富士通のパートナーにとって、FJBは同じ横並びのパートナーの位置づけだった。それが新会社になった途端に立場上、パートナーの上にFJMが存在することになる。極端にいえば、ライバルがいきなり自身を支援する立場に変化したことになる。富士通のパートナーにとっては、気にくわない部分もあったに違いない。
加えて、FJMはFJB時代に大手企業の顧客が多く、SMB市場を十分に熟知しているとは言い難い部分もあった。また、直販で顧客を開拓してきたため、パートナーとの協業事業についてもノウハウが十分に備わっているとはいえない事情もあった。
発足から約9か月、「具体的な効果がみえない」という声も聞かれる。しかし、他のコンピューターメーカーが形成するSMB事業体制に比べて、FJMを中核とした富士通のSMB事業体制はシンプルで明確だ。3000億円という挑戦的な目標を、5年という期間で達成する計画を描いたFJMの成果を現段階で判断するのは、早期にすぎる。