“遠く”の日本より“近く”の韓国という現象が、データセンター移行の分野で起こっている。従来、金融機関には、安全を期して、バックアップセンターは本番機から60km以上離すという基準が設けられていた。BCP（事業継続計画）やDR（災害復旧）のためのバックアップだが、東日本大震災以降、関東・東北地区を中心に電力供給の不安に見舞われている。たとえバックアップセンターが本番機から60km以上上離れていても、東京電力管内の、同じ計画停電区画になってしまったために、バックアップ機に切り替えられなかったというケースもあった。

　電力供給不安から逃れるように、西日本にデータセンターを移す動きが加速した。ところが、原発の定期検査による稼働停止などで全国的に電力供給不足の状況に陥り、結局のところ、電力不安からは抜け出せそうにない。

　もともと地震の多い日本では、どこであってもリスクがつきまとう。できる限り安全な場所へ移しておきたいと考えて、バックアップセンターの海外移行を検討する企業が現れはじめた。とくに今、注目を集めているのが「韓国」だ。

　データセンター事業者が、韓国でサービスを提供しようとする動きが活発になっている。今年5月にはソフトバンクテレコムが韓国最大の通信事業者KTと合弁会社の設立を発表。9月から運用を開始する。またライブドアも、グループ会社の韓国・NHNビジネスプラットフォームとの協業を強化し、8月から韓国のデータセンターサービスを日本企業向けに販売しはじめた。

　海外進出の支援を行う某コンサルティング会社の役員は、クライアントから海外のデータセンターへの移行の相談を受けた際、韓国のデータセンターへの移行を強く推奨している。

　「韓国」が注目される理由として、まず地震発生率が日本の250分の1であることが挙げられる。また、電気料金も日本の約半分。国策で推進してきたIT教育により、高度なITリテラシーをもち合わせている人材が多いという利点もある。セキュリティ面でも日本に劣らない堅牢性を備えている。さらに、日本に近いので、日帰り出張ができるのも便利な点だ。

　一方で、不利な面もある。一つは政治的な問題であり、もう一つは日本に向けた接続性の問題だ。「LG U＋」が提供する国際網は、米国が16Gbps、中国が10Gbps、日本は4Gbps。だが、今後の需要で増強される可能性は十分ある。自社の顧客に対して、海外データセンターでのサービス提供を模索しているITベンダーは多いはずだ。他の地域に比べて、電気料金が低額で、高度なセキュリティが担保されたデータセンター、何より日本に近いという点で、国内データセンターサービスと比べて大きな優位性を見出せそうだ。（鍋島蓉子）