日本と台湾のITベンダーが連携して中国に進出する「日台ITアライアンス」が、具体化の段階に入ろうとしている。今年9月に、投資保障や自由化を目指した「日台民間投資取り決め」が調印されたのをきっかけに、台湾政府や有力IT団体の中華民国情報産業協会(CISA)が日台IT連携の推進活動を加速化。さらに、CISAの劉瑞隆理事長が本紙インタビューで日台連携を実現するための具体策を明らかにするなど、ここにきて、日本と台湾のITアライアンスがかたちになり始めている。(ゼンフ ミシャ)
中国企業に日本ITの品質の高さを訴求
10月上旬、クローズドイベントの「IT企業経営者座談会」が横浜市内のホテルで開かれた。座談会では、2010年に台湾と中国が締結した「両岸経済協力枠組協定(ECFA)」に関わった台湾の行政院(最高行政機関)政務委員の尹啓銘氏が登場し、台湾政府を代表して、会場に集まった日本のIT企業の経営者らに、「ぜひ、台湾の企業と一緒に中国でビジネスを展開していこう」と熱いメッセージを送った。
尹政務委員の日本訪問の背景には、9月末に、日台間の投資協議となる「日台民間投資取り決め」が調印されたことがある。この取り決めは、台湾に向けた投資の保障や推進、自由化を図るものだ。例えば、日本企業が台湾に子会社を設立する際に、その会社が台湾の法人となり、台湾企業と同じような権利をもって、ビジネスを展開することができる。さらに、台湾を通じて中国に投資すれば、中国で台湾企業と同等の投資保障が受けられる。要するに、「日台民間投資取り決め」は、日本企業にとって、台湾と中国に投資をするリスクを大幅に低減し、台湾を経由した中国進出のハードルを低くする仕組みになるわけだ。
台湾は自国のIT市場の規模が限られており、また国内企業単独では海外進出が難しい状況にある。台湾政府や有力IT団体は、中国の著しい経済成長やIT需要の高まりを受け、数年前から、すぐれたIT商材をもつ日本のベンダーと、中国の商慣習に精通する台湾のIT企業が組んで中国に進出する「新ゴールデン・トライアングル」のモデルを訴えてきた。しかし、「新ゴールデン・トライアングル」は、これまで日本のITベンダーがどうすれば中国進出を実現することができるかに関して具体性に欠けており、単に響きのよい言葉に過ぎなかった。ここにきて、「日台民間投資取り決め」を結んで、日本企業の投資を保障する基盤ができただけでなく、「新ゴールデン・トライアングル」づくりの指揮を執っている中華民国情報産業協会(CISA)が、方針の具体策を明らかにしている。
CISAの劉瑞隆理事長(SYSCOMグループ代表)は、本紙の単独インタビューで、「新ゴールデン・トライアングル」の実現に向けて、具体的なモデルを語った。モデルでは、日本のITベンダーは、中国ビジネスのプロ集団である台湾IT企業を橋渡し役として、ソフトウェア開発案件を中国のベンダーにオフショア開発先として委託する。そうすることによって、開発コストを削減しながら、「品質の高い日本のIT製品を中国に知ってもらう」(劉理事長)ことを狙う。次のステップとして、「日本のITベンダーが中国に進出した際に、オフショア開発を手がけた中国のITベンダーに中国地場企業への販売やサポートを行う部隊として動いてもらう」(同)。ステップをたどって、最終的に、日本のITベンダーが全面的に中国でビジネスを展開することを目指したモデルだ。
CISAは今年、中国・福建省南部に位置する廈門(アモイ)市に事務所を開設した。これから、北京や上海、西安など、台湾大手システムインテグレータ(SIer)のSYSCOMグループがもつ中国拠点と連動したかたちで、中国全国の7か所にCISAのオフィスを立ち上げる方針だ。事務所の開設によって、中国各地のソフトウェア開発会社とのパイプをつくり、日本のITベンダーの委託先となる中国ITベンダーのネットワークを築いていく。
劉理事長は、「この先の2~3年で、日台ITアライアンスの基盤を固めて、ビジネス化を全力で推進したい」と意気込んでいる。

日台連携図
表層深層
昨年12月、台湾の首都・台北市でアジア太平洋地域を対象とする「2010 ASOCIO ICT SUMMIT」が開催された。そのサミットに参加した日本情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長に、日台ITアライアンスの進捗について聞いた。その際に、浜口会長は、「日本と台湾のパートナーシップの具体的な姿がまだみえていない」と、方針の曖昧さに少し不満げだった。
確かに、昨年の今の時点での日台ITアライアンスは、アイデア自体はすばらしいものの、具体性がまるでなかった。記者はかつて、CISAの劉理事長にインタビューをしたことがあるが、日台ITアライアンスをどう実現するかについて、具体的な答えが得られなかった。そうした経緯があったことから考えると、「民間投資取り決め」の調印や、中国での事務所開設をはじめとしたCISAの方針の具現化など、ここ数か月の動きには興味深いものがある。
台湾は、大陸の市場でビジネスを展開するにあたって、すぐれた商材をもつ強力なパートナーを求めている。このところ、台湾政府やCISAが一生懸命に日本のITベンダーを引っ張ろうとしているのは、うなずける話だ。CISAの劉理事長は、向こう2~3年がカギを握るとみている。要するに、CISAが訴える「新ゴールデン・トライアングル」を実現できるかどうかは、今が分岐点なのだ。中国進出を考えている日本のITベンダーは、台湾側の歓迎の声を受けて、積極的に台湾/中国ベンダーとの連携を進めるのが得策と思える。(ゼンフ ミシャ)