企業内にソーシャルメディアが浸透してきた。セールスフォース・ドットコムは、2011年、ソーシャルネットワークを活用して顧客との関係を革新する「ソーシャルエンタープライズ」というビジョンを打ち出した。2012年は、「ソーシャルエンタープライズ」の具現化をさらに推し進める方針だ。各社は、ゲーミフィケーションやソーシャルラーニングといったトレンドに乗りながら、市場の開拓に取り組んでいる。(文/信澤健太)
figure 1 「市場動向」を読む
専業ベンダーがトップシェアを握るが……
調査会社のミック経済研究所によると、2010年度のソーシャル機能/SNSパッケージ市場は、前年度比117.4%の7.8億円であった。先頭を走るBeat Communicationの「Beatシリーズ」は全体シェアの30%を占め、2位以降には25%のガイアックス「airy」、21%の日立ソリューションズ「InWeave」、5%の日本IBM「IBM Connections」が続く。このほか、セールスフォース・ドットコムの「Chatter」やサイボウズの「サイボウズ Live」、SAPジャパンの「Stream Works」などの製品がある。留意しておく必要があるのは、Beat Communicationやガイアックスなどの専業ベンダーと、幅広い製品群を持つセールスフォースやサイボウズなど一部ベンダーのビジネスモデルが異なることだ。例えばセールスフォースの場合、既存ユーザーのライセンスには「Chatter」が含まれており、追加料金は不要となっている。このため、前述のようなシェアには反映されにくいという事情がある。
ソーシャル機能/SNSパッケージ市場規模の推移(出荷金額)
figure 2 「利用の傾向」を読む
大企業を中心に用途の多様化が進む
ミック経済研究所によると、「ソーシャアルメディアは、一定規模のコミュニティが存在する大手企業への導入が多く、2010年度で66.7%のウエートを占めている」という。阿部透・調査第三部研究員は、「東日本大震災を受けて、これまでの社内コミュニケーション手段の進化形としてソーシャアルメディアを導入する機運が高まっている」と説明する。サイボウズには、医療機関が地域医療の一環として「サイボウズ Live」を導入した事例がある。患者ごとにグループをつくり、医療機関の職員全員に加えて訪問看護ステーションの看護師やケアマネージャーなどをメンバーとして登録。患者や家族が抱えている問題の共有や治療・ケアの方針の確認などに利用している。日本IBMの行木陽子・ソフトウェア事業Lotsuビジネス戦略エグゼクティブITスペシャリストソーシャルウェアエバンジェリストは、「グローバル化を推進している企業が導入している。研究開発部門でのナレッジ共有や営業支援などでも事例がある」と、用途を紹介する。
ソーシャルメディアの導入事例
figure 3 「製品動向」を読む
ビジネス価値を創造する仕組みづくり
Beat Communicationは、大企業を中心に、累計300社ほどの納入実績をもつ。同社の「Beat Shuffle」には、基盤システムにJavaベースのサービスプラットフォーム「OSGi」を採用している。機能をモジュール化し、アプリケーションの追加や機能の一部更新が容易となった。2012年中に、企業同士が「Beat Shuffle」上で連携できるように対応する予定だ。セールスフォースは、ソーシャルメディアをビジネスに生かすソーシャルエンタープライズを実現する3ステップの一つに、「Chatter」を位置づける。「Database.com」や「Sales Cloud」をはじめとする自社製品群、カスタムアプリと連携させることができるのが強みとなっている。セールスフォースの榎隆司・執行役員プロダクトマーケティングは、「『Force.com』上で動くので、企業内のデータシェアリングやセキュリティ確保が容易」と説明する。タレントマネジメントシステムを開発・販売するサバ・ソフトウェアの企業向けソーシャルネットワーク「Sabaピープルクラウド」に追加される「Sabaソーシャル」は、従業員同士の交流頻度や、結びつきの程度、所属組織から人材の社内コネクションやネットワークへの影響を可視化する機能を備えている。シルクロードテクノロジーや日本IBMも同様の視点に立った取り組みを強化している。
「Sabaピープルクラウド」の概念
figure 4 「将来像」を読む
ゲーミフィケーションとソーシャルラーニングに脚光
ゲームデザインの技術やメカニズムを他分野に応用するゲーミフィケーションが、注目を浴びている。タニタの「からだカルテ」やタカラトミーの「人生銀行」がそれにあたる。日本IBMは、ソーシャルメディアを利用してもらうための「モチベーションの研究に取り組んでいる。シンプルなユーザーインターフェースで興味を引きそうなものにする必要があると考えている」(行木エバンジェリスト)。サバは、目的特化型のソーシャル環境が構築されていくことになるとみている。キーワードはソーシャルラーニングで、「継続して人を育てていくために、知識の習得と実践をつなぐ。同じ問題を抱えている人同士で各自の疑問や気づきを共有できる」(尾藤伸一代表取締役)。販売モデルとしては、サバが次期製品をソーシャルメディアやパフォーマンス管理、ラーニングなどをすべてセットで提供するほか、「まずは『サイボウズ Live』の価値を広げていく」(丹野瑞紀・グローバル開発本部シニアプロダクトマネージャー)ために無料モデルを当面貫くものや、前述のセールスフォースのようなものなどがある。シンプルなソーシャルメディアを販売する専業ベンダーは、収益が厳しい場合が少なくない。価格や連携性、専門性などで市場の棲み分けが進むか、淘汰される可能性がある。
ゲーミフィケーションの事例