データ復旧サービス市場が堅調に伸びている。ストレージの多重化やバックアップ技術の向上でデータは相対的に失われにくくなっているものの、一方で取り扱うデータの絶対量が増えていることが復旧ニーズ拡大の背景にある。データ復旧サービスベンダーは全国に100~200社と推測されるが、深刻な物理障害(破損、冠水など)や複雑な基幹システムの復旧に対応できる本格的な設備を有するベンダーは20社ほどとみられる。(文/安藤章司)
figure 1 「市場規模」を読む
年率約10%で伸びる復旧依頼件数
データ復旧サービスの市場規模を推量する目安の一つとなっているのが、最もボリュームの大きいハードディスクドライブ(HDD)の復旧依頼件数である。データ復旧サービスベンダーで構成する業界団体の日本データ復旧協会(濱田兼幸理事長=ワイ・イー・データ社長)の調べによれば、2010年1~12月期の復旧依頼件数は前年比約13%増の約6万8000台で、2011年の推計ベースでは10%増規模の増加が見込まれている。
一見すると大震災があった2011年の伸び率が鈍っているようにみえるが、内実は2010年からNAS(ネットワーク接続型ストレージ)やUSB接続の外付けHDDを新たに集計対象としたことが一時的に増えているようにみえる要因だ。日本データ復旧協会では、実際は年率10%程度で伸びているトレンドに変わりはないとみている。ただ、復旧サービスの単価下落が一部で起きていることから、金額は件数ほどには伸びていないとみる向きもある。
ハードディスクドライブの復旧依頼件数の推移
figure 2 「主要プレーヤー」を読む
技術習得や健全発展に業界団体の役割大
全国のデータ復旧サービスベンダーの数は100~200社ほどあるといわれている。ただ、その多くは簡便なデータ復旧ソフトを使っているケースが多く、物理的な障害まで復旧する本格的なラボ設備を保有しているベンダーは20社程度とみられる。このうち日本データ復旧協会に現時点で加盟しているのは右図の7社。協会は2009年10月にワイ・イー・データなど発起人会社5社によって設立され、直近では2011年10月に大阪データ復旧(大阪市)、12月にはデータワークス(富山市)が新たに加わっている。一定水準以上の設備と技術力を備えた会社の加盟を歓迎しているので、加盟社は今後も増える見通しだ。
データ復旧は、これまではHDDが主流だったが、近年ではSSDやSDなど半導体方式の大容量記録メディアの復旧依頼が増えつつある。新メディアへの対応ではメーカーの技術開示が必要なケースがあり、業界団体として足並みを揃えてメーカーと話し合う機会が多くなりそうだ。
日本データ復旧協会加盟社
figure 3 「技術動向」を読む
普及が進むクラウドシステムへの対応を急ぐ
データ復旧を技術的側面からみると、大きくはハードウェアが損傷した「物理障害」と、ソフトウェアがクラッシュした「論理障害」の二つに分けられる。データ復旧では、例えば壊れたHDDを修理して、データを新しいHDDに移し替えただけでは、本当の意味で復旧したとはいえない。データ構造を正しく解析し、ソフトウェア的にも正常に使えるように修復する必要がある。仮想化技術をベースとするクラウドシステムがあたりまえのように使われるようになった今では、HDDやSSD数十台で多重化されたRAID構造の上に数十台の仮想マシン(VM)で構成されたシステムの復旧依頼が増えている。
複数ある仮想マシンのうち、どこに障害が発生しているかを分析し、さらに顧客にとって重要度の高い仮想マシンから順繰りに復旧する手順を採る──。日々進化するクラウドシステムのシステム構成を熟知していなければ、こうした対応は難しい。ワイ・イー・データでデータ復旧にあたる尾形光弘氏は、「まずはRAIDのどこにデータがあるのか探り当てて、そこから目的の仮想マシンを切り出す」と説明する。クラッシュしたデータベースの場合も同様で、物理障害の復旧だけでなく、論理障害の修復も行われる。
クラウドシステムの障害状況の一例
figure 4 「売り方」を読む
データ復旧サービスの販路整備は道半ば
データ復旧サービスの販売経路は主に三つ。(1)ユーザーがデータ復旧サービスベンダーに直接持ち込む、(2)ユーザーのシステム運用を担当しているSIerを経由、(3)大がかりなラボ設備を有していないデータ復旧ベンダーが、設備をもっているベンダーに依頼するケースの三つである。簡易なデータ復旧サービスを提供しているベンダーは全国に100~200社ほどあるとみられており、例えば「パソコンなど単純な構造の機器で、ユーザーが誤ってデータを削除した」程度のものであれば、比較的簡単にリーズナブルな価格帯で復旧できる。
問題は、何重にもバックアップをとってある複雑なシステムで物理障害が発生したり、SSDなど半導体方式の記録メディア、ブラックボックスに近いスマートデバイスが故障した場合だ。これらを復旧するには、相当の技量が求められる。トップクラスの技量をもつベンダーの数は限られているので、難易度の高い復旧案件は自ずと上位20社ほどのサービスベンダーに集中する。ただ、ミッションクリティカルなデータを失う重大事故は、日常的に発生するものではない。このため、ユーザーやSIerなどがデータ復旧ベンダーの存在を十分に認知していないことも考えられ、販路整備はまだ道半ばという見方もある。
主なデータ復旧対象メディア