富士通グループのPFU(長谷川清社長)のアジア成長国におけるビジネスが拡大期に入りつつある。アジア最大市場の中国では、主力商材である業務用イメージスキャナの大型受注が相次いでおり、これを軸にインドやASEAN地域への横展開にも力を入れる。イメージスキャナ事業の売上構成比は、80%余りが日欧米の成熟市場向けで、20%弱を成長市場向けが占めてきた。今後は、成長市場でのビジネス拡大を推進することで成長市場での構成比を40%程度に高めていく考えを示す。(取材・文/安藤章司)
アジア市場の構成比を40%に拡大へ
PFUの主力商材である業務用イメージスキャナは、日欧米ではトップクラスのシェアを誇るものの、成長国市場の売上構成比は低い状態が続いてきた。成長国では、業務用スキャナやビジネス用スキャナの市場は、まだ立ち上がりの段階にあって、PFUはここ3年ほどの期間を費やして成長市場のニーズを満たす製品開発や販路開拓に取り組んできた。
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| 村田良雄担当部長 |
このような活動が実を結び、アジア最大市場である中国では、徐々に成果が現れはじめている。2010年11月からスタートした中国の第6次国勢調査では、同社製の高速イメージスキャナが採用された。数百万人規模の調査員が各家庭の世帯主などの職業や家計の状況、学籍といった基本情報を手書きした用紙約7億4000万枚を中国全土約500拠点で読み取り、中国語OCR(光学式文字読み取り)ソフトと連携して集計作業を行った。
このときに開発した中国語OCRは、「DynaEye EX Chinese Edition」として今年2月に製品化した。日本語版の「DynaEyeシリーズ」は15年余りの開発実績と日本を中心におよそ4500社への納入実績がある。同じ漢字文化圏である中国語版においても、日本語同様の高い精度を発揮することは先の中国における第6次国勢調査で実証されていることから、「当社の大きなアドバンテージとしてイメージスキャナ事業との相乗効果を発揮していく」(PFUの村田良雄・海外営業統括部担当部長)と意気込む。
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| 池田明浩担当課長 |
中国における業務用スキャナ製品でターゲットとしているのは、銀行や官公庁、大学、病院、保険の主要分野だ。手書きの記入用紙をデジタル化するニーズが多い点がこれら主要分野の共通項である。銀行では中国銀行や中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、交通銀行の5大銀行にはすでに納入実績があり、「今は地方銀行や新興の保険会社などの金融業全般に横展開するほか、官公庁や大学、病院といった公共分野の深掘りを進めている」(池田明浩・ECM営業統括部販売推進部担当課長)として、シェア拡大にアクセルを踏む。
成長国市場への本格進出にあたり、スキャナのハードウェア開発そのものにも多くの手直しを加えてきた。例えば、中国では複写式の薄いタイプの記入用紙が多く使われているが、従来のスキャナでは、薄すぎて紙送りがうまくできないケースがあった。開発スタッフが中国現地でさまざまな厚さの用紙や帳票を実際に試して、改良を重ねて対応できる幅を広げていった。「デジタル機器ではあるものの、紙を扱う部分はあくまでもアナログの世界。長年培ってきた職人技で微調整を繰り返した」(村田部長)と、開発の経緯を振り返る。
また、インドでは空気中の塵埃に悩まされた。PFUの開発陣はスキャナのなかに塵埃が入り込まないように開口部をできる限り塞いで、耐久性を高めた。インドと並行してASEAN地域での販路整備も推し進めている。
業務用スキャナの販売は成長市場で徐々に伸びてきたものの、PFUのもう一つの主力製品であるコンシューマ向けの「ScanSnap」シリーズの拡販は緒に就いたばかり。「ScanSnap」シリーズは、国内では家庭用の電子書籍制作用として人気商品になり、BCNランキングで国内スキャナ部門シェアトップを獲得して、「BCN AWARD」を2年連続で受賞。米国では税務申告の用途で広く一般家庭で使われている。
日米でほぼゼロからScanSnapの市場をつくってきた実績をテコに「中国などの成長国でも新しい市場を創出する」(村田部長)と話す。
今年度(12年3月期)のイメージスキャナ製品の出荷台数は、同社の世界戦略が効を奏して、前年度の約82万台から94万~95万台程度に拡大する見込みだ。事業の売り上げ構成比は日欧米の成熟市場向けが全体の8割余りと依然として高い。だが、国別の売上構成比でみると、中国が米国と日本に次ぐ第3位の得意先に急浮上。これまでの第3位はドイツだったことを考えると、中国でのビジネスが急成長している様子がうかがえる。今後は日欧米でのビジネスも伸ばしながらも、アジアでのシェア拡大に努めることで、アジア成長市場の構成比を40%程度に高めていく方針を示している。