Microsoftのパブリッククラウドサービス「Windows Azure Platform（Azure）」と「Amazon Web Services（AWS）」の覇権争いが激化している。「Azure」は、富士通や日立製作所、富士ソフトなど有力ITベンダーと相次いで連携し、最大のライバルである「AWS」を猛追。対する「AWS」は先進的な機能を続々と実装し、パブリッククラウドの技術的リードを続けている。日本の有力ITベンダーのなかには「AWS」を支持し続ける姿勢をみせるところも多い。

　「Azure」を巡っては、組み込みソフトに強い富士ソフトが、EMS（エネルギー管理システム）分野で日本マイクロソフトと提携。センサやロボット、家電などに組み込むソフトと「Azure」とをつなげて、集まってくるデータを分析・有効活用する「M2Mネットワークサービス」の構築に挑む。また、日立製作所とは、日立が自ら運営するクラウドサービス「Harmonious Cloud」と「Azure」とを連携することで、海外でも国内同等の高品質のクラウドサービスを提供する体制づくりを進める。

　一方、ITホールディングスグループのTISは、グローバルクラウドサービスのインフラとして「AWS」を第一候補に挙げる。TISはクラウドサービス「TIS Enterprise Ondemand Service（T.E.O.S.）」を展開しているが、アジア太平洋全域をカバーするには、やはり世界展開している「AWS」の魅力は捨てがたい。

　グローバルで一段と存在感を増すパブリッククラウドに落とし穴があるとすれば、将来、このインフラが「世界の電算センター」になる可能性があることだろう。コンピュータが非常に高価だったメインフレーム時代、共同電算センターが全国各地につくられた。ユーザー企業にとっては、今や世界中に「共同電算センター」が誕生し、コストパフォーマンスにすぐれ、安定したサービスを利用することができる情勢になっている。

　ただ、規模や技術で「Azure」や「AWS」にかなわないというのは、どこか釈然としない面がある。やや乱暴な言い方をすれば、スマートフォンやDRAM、液晶パネルで、最近、負けが込んでいる日本のIT産業と重なる部分はないだろうか。日本のSIerは、大規模な基幹業務システム向けのエンタープライズ系プライベートクラウドで大きな強みをもっており、国内ビジネスに限っていえば直接的な影響は少ないのかも知れない。しかし、現状維持は何とかできても、世界戦略は描けない──では、やはり困る。日本の大手電機メーカーの一連の業績悪化は、情報サービス業界にとっても、決して対岸の火事ではない。将来に禍根を残さぬよう、自ら主体的に担う部分と提携で乗り切る部分を峻別する決断力が求められている。（安藤章司）