BCN(奥田喜久男社長)は、大手データセンター(DC)事業者の幹部を集めた座談会「DataCenter Meeting 2012」を、4月下旬に開催した。参加したのは、IDCフロンティア、インターネットイニシアティブ(IIJ)、エクイニクス・ジャパン、KVH、関電システムソリューションズ、さくらインターネット、ビットアイルの7社。DCに詳しい東京大学大学院教授の江崎浩氏がモデレータを務め、約3時間、さまざまなテーマで議論が交わされた。前半は、各社の経営幹部が現在のDCを活用したサービスを取り巻く市場環境について意見交換。後半は、DCを運用するうえで悩んでいる技術的課題などについて情報を共有した。主なポイントを解説する。(構成/木村剛士)
東日本大震災でニーズが急増
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| 江崎浩 教授 |
前半は「第一部 事業戦略セッション」として、各社が感じている市場環境と、事業戦略を話した。2011年3月11日に起きた東日本大震災後が与えたDC関連ビジネスへの影響について、ユーザー企業は、事業継続計画(BCP)の観点から、情報システムを自らで所有せずに、「DCに預ける」または「クラウドサービスに切り替える」ことを検討するケースが急増。各社の意見は「DCビジネスには追い風になった」という見解で一致した。
また、首都圏に建設したDCだけでなく、関西や北海道といった関東地方以外のDCと、海外のDCまでも視野に入れて、利用するDCを選択する傾向も、東日本大震災の影響で強まったという感触を数社が得ていた。北海道にDCを保有するさくらインターネットの田中邦裕社長は、「地方のDCに対する関心が確実に高まった」と話し、大阪府にDCを設置する関電システムソリューションズの福嶋利泰営業部長は、「大震災後は、問い合わせ件数の80~90%が東京のユーザー企業から」と言い、ユーザー企業の地方DCに対する関心の高さを印象づけた。
一方で、各社が危惧している部分として論点になったのが「電力問題」。電力料金の値上げについてだった。「自助努力だけではどうにもならない課題」(ビットアイルの高倉敏行部長)という意見があり、状況次第では、DC業界全体が協力して政府機関に要望を出す必要もある考えを数社が共通して示していた。ただ、電力会社が値上げに踏み切った場合、自社のDCサービスの価格を値上げするかについては、意見はバラバラ。「値上げする」と回答した企業もあれば、「据え置く」「検討中」との回答もあった。
後半は、「ITが企業と家庭にとって必要不可欠なインフラ」(IDCフロンティアの粟田和宏部長)で、DCが今以上に重要な社会的基盤になった時に、DC事業者が行わなければならないことについて議論した。地域との結び付きを強めたり、ユーザー企業にDCサービスをわかりやすく伝えるための普及活動を今以上に力を入れることが求められるという意見が出た。
電力問題は緊密の課題
第二部は「設備・インフラセッション」として、技術担当の幹部が参加し、今後取り組まなければならない技術的な課題について議論した。
最初は、「レイテンシー(遅延)」が話題になった。「金融機関などはレイテンシーに対してかなり敏感」(KVHの市川秀幸マネージャー)で、ユーザー企業のなかには、自社のシステムを預けるラックの場所を指定したり、「海外と接続する海底ケーブルの長さから国内の経路まで、細かく調査する企業もある」(エクイニクス・ジャパンの大槻顕人シニアコンサルタント)など、具体的なユーザーの状況について意見を交わした。その一方で、業種によってはレイテンシーにこだわるユーザーがいないという意見もあり、業種や動かすシステムで、ユーザー企業の要望が違うことがわかった。
また、第一部でも議論された電力問題については、技術担当者のなかでも活発な議論が飛び交った。主に、DCにかかる電力を抑えるための取り組みについてが論点で、外気を取り入れてサーバーを冷却する具体的な仕組みや、電力の消費状況を見える化して常にチェックする体制について情報を共有。DCの周囲に水をまくなど、各社の節電対策について、かなり細かい情報を公開し、また「直流(DC)と交流(AC)の変換ロス」(IIJの久保力部長)など、高度な専門的課題についても話された。また、政府が示している電力削減目標が現実的ではないという意見もあった。省エネ基準が、DCの運用実態に即しておらず、目標基準について明確な説明がほしいと訴えていた。さまざまな議論が交わされたが、空調ベンダーやゼネコンなどを交えた効率的な電力使用のあり方を考えなければならないという意見は、共通していた。
市場環境や技術的な課題など、各社で考え方が違い、異なる意見が時にはあったが、ライバルであるものの、市場を活性化させるためには協力体制も必要という見解は一致をみた。
・座談会の詳細は「
<BCN DataCenter Meeting 2012>『データセンター』のいまと次代への足がかり」をご覧ください。