オービックビジネスコンサルタント(OBC、和田成史社長)と日本マイクロソフト(樋口泰行社長)が、中堅企業向けクラウドサービスの販売に関して協業することがわかった。OBCは「Microsoft Windows Azure Platform」を開発・提供基盤としたクラウドサービスを提供する。協業の第一弾として、ERP(統合基幹業務システム)パッケージ「奉行V ERP」の顧客向けに「奉行クラウドオプション」製品群を市場に投入する。(信澤健太)
OBCが日本マイクロソフトとの協業を通じて提供する「奉行クラウドオプション」は、オンプレミス型で運用する「奉行V ERP」に連携できる追加オプションだ。「奉行クラウドオプション 仕訳伝票 for 勘定奉行V ERPシリーズ」「奉行クラウドオプション 給与賞与明細照会 for 給与奉行V ERPシリーズ」「奉行クラウドオプション 勤怠管理 for 就業奉行V ERPシリーズ」の3製品を皮切りに、OBCの販売パートナーを通じて6月6日から販売する。
これまで提供してきたパッケージ製品の一部機能を、「Azure」上のクラウドサービスとして、香港に設置しているマイクロソフトのデータセンターを経由して提供するかたちとなる。OBCの西英伸・営業本部マーケティング推進室室長は、「多くの従業員が遠隔地や外出先でも利用するニーズが高い製品からクラウドに対応することにした」と説明する。
「奉行クラウドオプション 仕訳伝票 for 勘定奉行V ERPシリーズ」を導入すれば、初期投資を抑えながら地方拠点や部門の伝票処理を分散化することができる。「奉行クラウドオプション 給与賞与明細照会 for 給与奉行V ERPシリーズ」は、「給与奉行V ERP」で作成した給与明細や賞与明細を、クラウドを利用して従業員に配信する。「奉行クラウドオプション 勤怠管理 for 就業奉行V ERPシリーズ」は、従業員のPCから出勤を打刻したり、共有PCにカードリーダーをつけて打刻したりするなど、勤怠記録の端末を容易に増やすことができる。なお、価格は「奉行クラウドオプション 勤怠管理 for 就業奉行V ERPシリーズ」が、500ユーザーで、初期費用10万円プラス年間90万円。
「奉行クラウドオプション」製品群を利用することで、クラウドサービスの利点を享受できることになる。つまり、ソフトウェアライセンスやハードウェアなどの初期投資やアップグレードやメンテナンスにかかる保守・管理コストを削減できるわけだ。
「奉行V ERP」は、オンプレミス上に保持することで、「基幹情報を外部に出す」という、セキュリティ面に対するリスクや不安を最小限に抑えるとしている。オンプレミスの「奉行V ERP」とパブリッククラウドの「奉行クラウドオプション」を組み合わせた、いわゆるハイブリッドクラウドである。
クラウドの本格参入に慎重な姿勢をみせてきたOBCにとって、日本マイクロソフトとの協業は大きな意味をもつ。OBCの和田社長は、「これまでは、アプリケーションソフトウェアの周辺部分でクラウド対応していたにすぎない。今回は、パブリッククラウドの『Azure』をベースとして、アプリの操作、入力にまで踏み込むことになった。これはクラウド化を推し進めるうえで大きな一歩となる」と、協業の意義を語る。また、パートナービジネスの強化につながることにも言及した。「パートナーとの連携はさらに深まる。パートナー企業のモバイルソリューションとクラウド上で容易に連携できるようになる」。
これまで、OBCは「Azure」を利用したオンラインストレージサービスとして「OBCストレージサービス」を提供してきた。今回、「奉行クラウドオプション」を揃えることで、より広範な領域で「Azure」対応を実現したことになる。OBCの西室長は、「本来使うべき『Azure』の機能は何なのかを考えた。『Azure』を単にデータを格納するだけに利用する、というのをやめたいと思っていた」と打ち明ける。ハイブリッドクラウドで提供することについては、「コストを下げたいというユーザーニーズに応えることにした」という。
OBCに対する日本マイクロソフトの期待度は大きい。平野和順・デベロッパー&プラットフォーム統括本部業務執行役員パートナー&クラウド推進本部長は、「パブリッククラウドの『Azure』は、コンシューマ系のサービスの利用が多い。ここにきて、大本命のエンタープライズアプリケーションが載った。このことに大きな価値がある」と語る。
OBCと日本マイクロソフトは、6月以降、全国10か所で開催するOBC戦略セミナーなどを活用して、OBCの販売パートナー3000社に「奉行クラウドオプション」の提案モデルの紹介やデモ実演などによる教育支援に取り組む。加えて、今後1年間に6回、共同セミナーを開催する予定だ。

がっちりと握手を交わすOBCの和田成史社長(左)と日本マイクロソフトの平野和順業務執行役員
表層深層
「MS/DOS時代から続くパートナーシップで、引き続きマーケットに切り込んでいく。OBCの運命は日本マイクロソフトとともにある」。OBCの和田社長は、今回の協業に際して、両社の蜜月ぶりをこう表現した。日本マイクロソフトとの協業にかけるOBCの意気込みは相当なものと見受ける。
一方の日本マイクロソフトも、OBCが「Azure」対応を強化したことを歓迎する。結びつきの強い有力な基幹系業務アプリケーションベンダーとの協業であれば、なおさらである。平野業務執行役員は、「『奉行V ERP』は大手銀行などで導入が進んでいる。そうすると、SQL Serverも大手企業で導入が進む。今回のクラウド対応でより魅力を増せば、ライバルのオラクル製品を出し抜くことができる」という期待を込める。
すでに、先も見据えているようだ。平野業務執行役員は、「いつでもERPを『Azure』上に載せることができるように検証は済ませた。テクノロジーの壁はすでに越えており、今後はマーケットのニーズ次第、ということになるだろう」と話す。ただし、協業の内容は、あくまでも基幹業務を補完する機能のクラウドサービス化。OBCの和田社長は、「奉行V ERP」のクラウド対応については明言を避けている。
「Azure」への対応に関しては、慎重な業務アプリベンダーも少なくない。日本マイクロソフトにとっては、OBCとの協業が「Azure」の恰好のアピールになるといえそうだ。