アドビシステムズ日本法人が創立20周年を迎えた。これを機に、昨年末に予告していたソフトウェアのサブスクリプションモデルと「Adobe Creative Suite(CS)」の提供を開始するなど、さまざまな端末とサービスの提供方法を打ち出してきている。同社が大きな変革期を迎えていることがわかる動きだ。就任4年目のクレイグ・ティーゲル社長に戦略を聞いた。(聞き手 谷畑良胤)
“箱売り”からの脱却
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| 就任4年目を迎えた日本法人のクレイグ・ティーゲル社長 |
──アドビシステムズ日本法人が創立20周年を迎えた年、非常に大きな転換点が訪れているようだ。
ティーゲル 日本市場は、ひと言でいえば、非常に業績が好調だ。世界では、第一4半期(2011年12月~2012年2月)の業績とそれ以降の見通しを示したが、多くの革新的な新製品が出るタイミングであり、明るい。昨年11月には「Adobe Creative Suite(CS)」の新製品と、サービスの新たな提供手段となる「Adobe Creative Cloud」を今年度(12年11月期)の上期に発表することを明らかにした。PhotoshopやInDesignなどの新版を2年ぶりに出すということもあって、新規・既存を問わず顧客の関心が非常に高まっている。
──6月にはデザイン、ウェブ、ビデオ制作のプロに必要なツールとして新版の「CS6」と、クラウド環境でこのCS6を購入できる「Creative Cloud」の販売を開始する段取りになっていると聞いている。
ティーゲル 今回のローンチで提供する「CS6」と「Creative Cloud」は、当社にとっての大きな変革を意味している。つまり、ユーザーに対してソフトウェアを提供する手段が変化することを意味している。これまでの20年間は“箱売り”を主体にしてきた。ユーザーはパッケージソフトを購入してパソコンにインストールし、パソコン上で使う。そして、アップグレード版についても、パッケージを購入するやり方だった。
だが、これまでのユーザーは新しい機能やベネフィットが出れば、すぐに手に入れたいと思うのが当然だ。それだけでなく、アドビ製品を使いたいと考える人は、サブスクリプション・モデル(一定期間を定額で利用する)を求める傾向が出てきた。こうしたユーザーのニーズを考慮し、「CS6」の投入と合わせて「Adobe Creative Cloudメンバーシップ」という新たな登録制度を設けた。
──単にソフトをクラウド上から購入したり利用する以外の機能も盛り込まれているそうだが……。
ティーゲル 「Creative Cloud」で革新的な機能を搭載したソフトを使えるのと同時に、アドビ製品の一連のクリエイティブ分野にあるタッチツールやデジタルパブリッシングツールでのアクセス、クラウド上で作品をストアすることも可能だ。他のユーザーと自分の作品をコラボレーションできる。これで、アップグレードサイクルを待つ必要がなくなった。メンバーは、永遠に「CS6」を使いたい時にすぐにダウンロードして利用できる。
──ソフトの価値を享受できるだけでなく、他社とコラボしたり、新たな付加価値が得られる、と。
ティーゲル 付加価値は、これまで述べてきたことだけではない。米国から出てくる新製品や機能を瞬時に手に入れることができる。デジタル・デザインの世界は変化が激しく、顧客の要求も高くなるなかで「Creative Cloud」に参画することはベストで最も速いソリューションということがポイントだ。
収益モデルは変わる
──サブスクリプションは、アドビの収益モデルを変えるはずだ。
ティーゲル 従来通りの利用方法を希望するユーザーもいるが、長期的には収益モデルは変わる。プロフェッショナルの利用者は、最新の製品をすぐに手に入れたいという欲求を強くもつ。当社は現在、さまざまなスタディを行っている。最終的には売り上げは同じバランスで推移するだろう。
──今後の新機能は?
ティーゲル 目玉となるのは、タッチスクリーン用アプリケーションファミリー「Adobe Touch Apps」だ。クリエイターにとっては、タブレット端末での利用が大きな価値になる。タブレット端末で高度な画像編集ができる「Photoshop Touch」が使えるなど、タブレット端末で作業した途中のものを、会社に戻り次第、パソコンで作業できたりする。今年の後半には、ビデオなどをブラウザで表示する標準規格に準拠したHTML5コンテンツの制作ツール「Edge」と、HTMLを書かずに効果的に動的にウェブサイトを作成できるツール「Muse」というクリエイティブツールが出てくる。
──米本社は、精力的にM&Aを続けているが……。
ティーゲル 当社は新しいビジネスの柱として「デジタルメディア」と「デジタルマーケティング」を掲げている。デジタルメディアはコンテンツを作成して各種メディアに載せ、デジタルマーケティングでは、コンテンツの効果測定やパーソナライズしたり、最適化したりをウェブや複数デバイスでできる。そして、世の中にクラウドサービスが入ってきたことで、コンテンツをどうクリエーションするのかが問われてくる。そこを支援し続ける。
──今後20年をどう描くのか。
ティーゲル アドビのアドバンテージは、20年という長期間にわたってクリエイティブな活動をサポートしてきたことにある。さまざまな企業買収によって、デジタルマーケティング市場でもリーディング企業になった。その強みを発揮していく。