セキュリティ大手メーカーのシマンテック(河村浩明社長)は、大型案件の獲得を急ピッチで拡大している。同社は、大企業/官公庁向けの包括的ソリューションを注力分野として、2013年には大型案件をさらに伸ばす構えだ。そのためのツールとして、同社の専門家が講師を務めるかたちで、ユーザーにサイバー攻撃の検知・解析について学んでもらう育成コースを実施する。ユーザーのスキル向上によってセキュリティ製品・サービスの販売促進を狙うとともに、コースそのものを、収益を出す新規事業に位置づけている。
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| 河村浩明社長 |
河村浩明社長は、「この2年間、サイバー攻撃の増大や多様化によって、大企業向けビジネスを順調に拡大している。2012年度は、大型案件の件数が前年度の3倍に伸びた」と、事業拡大に自信をみせる。同社はこの勢いに乗じて、特定の企業や組織を的に狙う「標的型攻撃」対策をはじめ、大企業や官公庁に、包括的なセキュリティソリューションを提案していく。
サイバー攻撃の多様化に歩調をあわせて、セキュリティ製品も複雑化している。ユーザーは、セキュリティツールを使いこなすために、これまで以上に高度なスキルを求められることになる。ベンダー側からみれば、ユーザーのスキルが高度であればあるほど、仕組みが複雑な包括的ソリューションも提案しやすくなるわけだ。そんな状況にあって、シマンテックは自らが主導して、ユーザーのスキル育成に関して精力的に働きかける。
同社は今年9月に、大企業や官公庁のセキュリティ担当を対象とする育成コースを開始。サイバー攻撃の検知・解析をレクチャーしたり、受講者にシマンテックのツールを体験させる実践トレーニングを行う。2タイプのコースからスタートして、順次、メニューを拡大する方針だ。河村社長は、「コースを通じて、ユーザーに当社のナレッジを提供し、攻撃の対処方法に関する専門知識をもつエキスパートを育てる」と、新しい取り組みの狙いを語る。コースの受講料を一人あたり50万円前後と設定し、ソリューションの販売を促すだけではなく、コース自体を売り上げにつなげるという。
シマンテックはここ数年、パートナー向けの認定資格制度を充実させ、パートナーの技術力の向上を推進している。このようにパートナーの役割を強化して、自社のリソースを顧客獲得や、今回の育成コースの講師など、新しい活用領域にシフトする動きを加速している。つまり、高い人件費をかけて有する社内専門家をより効率的に活用することによって、自社のリソースを増加せず、ビジネスの拡大を目指すという戦略だ。
IT業界の変化が激しいなか、ITベンダーにとって、社内の専門リソースをいかに効率よく使い、新しいビジネスを創出したり、収益性を高めることができるかが課題となっている。専門家の新たな活用方法として、シマンテックのユーザー育成コースの取り組み、その背景にある人材活用戦略は、モデルケースの一つになり得る。(ゼンフ ミシャ)