ITホールディングス(ITHD)グループのTIS(桑野徹社長)が、アジア戦略を加速している。中国・天津のデータセンター(DC)事業が軌道に乗り始めたことを受けて、中国での第2センター、ASEANへの横展開を視野に入れる時期に来ているからだ。TIS独自のクラウドサービス基盤「T.E.O.S.」のグローバル対応も着実に進んでおり、ITインフラやミドルウェア、サービス、アプリケーションを包括的に提供する体制の強化を急ぐ。ITHDグループ全体では、向こう3年の期間で、注力分野であるサービス化やグローバル分野で200億円規模の投資枠を設定。成長にドライブをかける。(安藤章司)
アジア市場に向けたビジネスで、TISが成功例の一つに挙げているのが、2010年4月に中国・天津で立ち上げたデータセンター(DC)事業だ。通信事業者やスパコンメーカー、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)ベンダーなどと次々に協業関係を構築。ユーザー数を拡大してきた。主要日系SIerのうちで最も早く中国に開設したDCだが、立ち上げ当初のビジネスの伸びは決して快調とはいえなかった。だが、ここ1年ほどで伸び率が急上昇。上海に拠点を置くTISグループの地場市場向けSI会社の売り上げの伸び率をすでに上回る勢いを示している。DC特有の積み上げ型のビジネス特性もあって、収益のベース部分を担う重要な役割を果たすまでに成長した。
天津DCはこのまま計画通り順調に進めば、2015年頃には1200ラック相当の容量が埋まる見込みである。しかも、DCの着想から竣工まで2年近くかかることを考えれば、遅くとも2013~2014年頃までには中国での第2センターの構想に取りかかる必要がある。TISでは、このSIとDCを組み合わせたビジネスモデルをASEANにも展開していく準備を進めており、「中国・ASEANともにセンターを自前でつくるのか、借りるのか、M&Aで調達するのか、あらゆる可能性を視野に入れる」(丸井崇・海外事業企画室長)と、次の一手に向けた検討を始めている。
もう一つ鍵を握るのが、DCを活用したTIS独自のクラウドサービス基盤「TIS Enterprise Ondemand Service(T.E.O.S.)」である。DCの規模だけでは、通信キャリアやDC専業事業者、メーカーには勝てない。SIerならではのクラウドサービスの“OS”に相当するフルアウトソーシングサービス基盤を握ってこそ、ライバル他社との差異化や顧客の囲い込みが可能になる。この7月からは、天津DCをベースに運用しているクラウドサービス「飛翔雲」と「T.E.O.S.」の運用管理機能を連携させる取り組みを始めるとともに、メガクラウドサービスベンダーの「Amazon Web Services(AWS)」との連携も段階的に強めていく方針だ。

TISのクラウドサービスビジネスの将来イメージ 東京や大阪、天津などに最新鋭のDC設備を保有するTISだが、アジアの成長市場の一翼を担うASEAN地域には、今年に入ってようやくシンガポール拠点を立ち上げた段階で、DC設備はもっていない。このため当面はAWSとの連携で補うとともに、中国でのサービス提供に制約があるAWSを、逆に飛翔雲で補完。さらに日中DCインフラと世界のAWSを包括的に運用するクラウドサービス基盤としてT.E.O.S.を機能させ、TISがワンストップでグローバルクラウドサービスをユーザーに提供するポジションの確保を狙う。
T.E.O.S.上で稼働するシステム数は、この1年で前年比約3倍のおよそ300システムに達しており、「向こう1年もほぼ同様の高い成長を見込む」(内藤稔・IT基盤サービス第1事業部プラットフォームサービス推進部主査)と鼻息が荒い。今年6月には、有力化学メーカーの三洋化成工業が中国とタイ、米国の3か国、7拠点の海外連結子会社の基幹業務システム「SAP」のITインフラとしてT.E.O.S.を採用すると発表している。ITHDグループは、クラウドを中心としたサービス化、中国・ASEAN成長市場をメインとしたグローバル化分野で2015年3月期までに200億円規模の投資枠を設定し、成長エンジンを本格的に回していく方針だ。
表層深層
ITホールディングス(ITHD)グループのクラウド/グローバル戦略にとって最大の課題は、グループのもう一翼を担うインテックとの連携である。今、中国からの横展開を図っているASEAN地域では、シンガポールはTIS、タイ・バンコクはインテックが現地法人を開設するなど重ならないように連携しているものの、クラウドサービスの“OS”ともいえるサービス基盤では、いまだに連携がとれていない。
TISは「T.E.O.S.」、インテックは「EINS WAVE(アインスウェーブ)」をそれぞれ展開しており、これまで「二つのサービス基盤を連携、統合運用させる話は幾度かあった」(インテックの小川圭一・ネットワーク&アウトソーシング事業本部参事)というが、現段階ではできていない。SIerの場合、どうしてもユーザーありきの開発になりがちで、TISとインテックの顧客基盤が大きく異なることから、一足飛びに統合運用できない事情もある。
だが、裏を返せば顧客の重なりが少ないだけに、両社が連携したときの相乗効果は想像以上に大きくなるだろう。とりわけ中国・ASEANでのITインフラ基盤の整備を進めるには、まとまった投資が不可欠となる。差異化の鍵を握るサービス基盤=クラウドOSの開発でも、両社の経営資源を集約して統合運用することを、ITHDグループが経営方針として打ち出している“as One Company”戦略を実践していくことが求められている。