有力SIerのインフォコム(竹原教博社長)は、独自に開発してきた緊急連絡/安否確認システム「エマージェンシーコール」を、今年11月、全面刷新する。スマートデバイスに本格的に対応し、スマートデバイスがもつ位置情報もあわせて活用することで、緊急連絡や安否確認がよりスムーズにできるようにする。1995年に発生した阪神・淡路大震災をきっかけに開発した「エマージェンシーコール」は、これまで全国700法人、約150万ユーザーを抱えるまでに拡大してきた。今回のリニューアルは、多様化するデバイスへの対応と昨年の東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえたもので、向こう5年で3000法人、500万ユーザーへの拡大を目指す。(取材・文/安藤章司)
BCPに主眼を置く特異なシステム
「エマージェンシーコール」は、企業や団体が主に災害時に緊急連絡や安否確認を行うシステムで、1996年に商用サービスを開始した。阪神・淡路大震災後の混乱で音信不通になるケースが多発したことから、震災発生から約2週間で簡易的な安否確認システムを作成。ボランティアの一環として提供したのが始まりだ。98年からスタートしたNTTグループの「災害用伝言ダイヤル」よりも先行している。
半ば公的なサービスである「災害用伝言ダイヤル」と、商用サービスである「エマージェンシーコール」との違いは、後者があくまでも企業や団体などの組織をターゲットにしている点にある。企業の場合、BCP(事業継続計画)の観点から社員の安否確認を速やかに行うとともに、事業を継続するために必要な人員を動員しなければならない。企業側から能動的に電話やメール、ウェブなどを駆使し、事業所に出勤可能な人員を集計。優先度の高い事業所に必要な人材を集まるよう指示を出す。この一連の流れを半自動でできることで、ユーザーからの支持を集めている。
安否確認に重点を置いたサービスは他社にもあるが、サービスビジネス営業部営業第一グループの木村裕徳課長は、「出社可能な人員の割り出しから動員をかけるまでのBCP支援を軸としたサービスでは、大規模組織を中心に当社がトップシェアを握っている」と胸を張る。今年11月に予定している「エマージェンシーコール」の全面刷新では、2011年の東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえ、スマートフォンをはじめとするスマートデバイスと、デバイスがもつ位置情報をあわせて活用できるようにする。iPhoneとAndroidの両方のスマートフォンやタブレット端末に対応することで、緊急時の返答率の向上と返答するまでにかかる時間の短縮を目指す。

木村裕徳 課長「輻輳現象」の発生前に呼び出す
東日本大震災のときには、震災直後から電話がつながりにくくなる「輻輳(ふくそう)現象」が起き、携帯キャリアが運営するメールの大幅な遅延や不通も問題になった。そこでインフォコムは、気象庁から地震発生の通知を受けた時点で、自動的にあらかじめ登録しておいた連絡先に一斉に安否確認の連絡を入れる仕組みを開発。輻輳が本格化する前に呼び出しを始め、その後、ユーザーにメールやウェブなど返信する手段を選んでもらい、安否を確認する手法を採る。図2は、東日本大震災時の社員数1000人余りのユーザー企業の使用状況をグラフ化したものだ。14時46分頃の地震発生直後の14時48分にCTI(コンピュータテレフォニーインテグレーション)技術を駆使して呼び出しをスタート。同時にメールなども送信した結果、3月11日当日の回答数は93.4%に達した。11月の刷新でスマートデバイスに対応するので、災害に強いGmailなどグローバルサービスを活用できるだけでなく、同時に位置情報も返信することで、どこにいるのかも把握しやすくなる。

小竹成佳 副課長 インフォコムでは、首都圏と関西圏の二つのデータセンター(DC)で並行してシステムを運用することで、先の震災でも「遅延なくエマージェンシーコールのサービスを提供することができた」(サービスビジネス開発運用室開発第一チームの小竹成佳副課長)という実績を残した。この実績をテコにして、震災だけでなく、台風やパンデミック(感染症の大流行)、ミッションクリティカルな業務で異常が発生したときの緊急招集などの幅広い用途でユーザーに活用してもらえるよう、販売に力を入れる。これまで700法人、150万ユーザーの約3割は販売パートナー経由での販売実績で、向こう5年で目指す3000法人、500万ユーザーへの拡大についても「パートナーと密に連携する」(木村課長)と、間接販売重視の姿勢で臨む。