拡大し続けるソフトパーク 強大なアウトソーシング拠点

武漢市
アウトソーシング協会
王斌耀顧問 総面積5180万m2(東京ドーム約1100個分)の武漢東湖国家級ハイテク開発区内にある武漢光谷ソフトウェアパーク(OVSP)は、現時点の総建設面積が60万m2を超えている。王意舒招商局副局長によれば、「昨年、中国内のソフトウェアパークの運営について、唯一の民間会社で大連ソフトウェアパークの運営・管理専門会社であるDLSPの理念を移植するため、同社と共同出資会社を設立して、OVSPの発展に向けた活動を強化した」という。すでに、隣接する花山(新城)地区の90万m2を造成する第2期建設工事が始まっており、完成すれば150万m2(東京ドーム約32個分)に拡大する計画だ。
OVSPには、組み込みソフトやアプリケーションソフト、アニメゲーム、自動車、電子製品といった日本や欧米などの大手ITベンダーや通信関連会社が軒を連ねている。OVSPについては、ここを「華中のサービスアウトソーシングセンターにする」(王招商局副局長)ことを目指している。ただ、現状で日本の情報サービス会社は、シスプロとインフォメーション・ディベロプメント(ID)の2社の現地法人があるだけだ。日系だけで18社近くの情報サービス会社大手が拠点を構える大連ソフトパークとは異なり、日本企業の進出は進んでいない。

武漢軟件新城発展
魏巍営業副総監 武漢のOVSPで業務を行う中国のITベンダーを中心に110社で構成する「武漢市服務外包行業(アウトソーシング)協会」は、OVSPの魅力をこう説明する。「中国内の銀行や証券会社を中心にBPOが急成長している。グローバル企業では、ヒューレット・パッカード(HP)やIBMからITOやBPOを請け負い、人員と業務量を年々増やしている。アウトソーシングだけでなく、北京や上海からGISやCAI、LCMなどのアプリ開発も受託している」(王斌耀顧問)と、技術力向上も目覚ましいと強調している。武漢軟件新城発展の魏巍営業副総監も、「武漢は大学が多く、毎年29万人が卒業する。人件費も安く、技術力が高い。他のアジア地区と比べると、漢字を理解できることはアドバンテージだ」と、日系ITベンダーに好都合な条件が揃っていると話す。
超高層ビルが建ち並び、今も開発が進んでいる武漢で活躍する日本ベンダー 安価で質の高い人材を最大限活用

武漢希思諾信息科技(シスプロ)
興津一夫董事総経理 武漢光谷ソフトウェアパーク(OVSP)内に拠点を構えるシスプロは、武漢市政府に「招商局顧問企業」に任命され、日本から武漢東湖国家ハイテク技術開発区への企業進出を支援する唯一の窓口となっている。同社は、08年末にオフショア拠点として武漢市内に現地法人を設立。社内システムや主力製品である人材派遣・紹介会社向けサービス「Worker's pro」など開発、データ入力、画像処理などのアウトソーシングの拠点としての役割を果たす。現地法人(武漢希思諾信息科技)の興津一夫董事総経理は「日本や中国上海で要件定義をした開発案件を武漢でコーディングする」と話す。リーマン・ショック以降の経費削減方針に従い、人件費の安価な武漢に拠点を構えてデータ入力などで必要な人材を確保するため、市政府との関係を深めてきた。

艾迪系統開発(武漢)
(インフォメーション・
ディベロプメント)
玉越俊哉董事総経理 OVSP内には、2013年までに日本企業だけを誘致して集積する「光谷日本科技産業園」がオープンする。113万m2の敷地内に先進技術や応用技術などの先端企業を誘致する。シスプロは「招商局顧問企業」として、この地への誘致活動も手がけているが、これに関連して新ビジネスを開始。興津董事総経理は「許認可申請やITシステムの支援、バックオフィスサービスなど、会社設立に関するフルサービスを開始した」とアピールする。
OVSP内のもう1社がID=現地法人名は艾迪系統開発(武漢)だ。04年4月の設立で、「日本のIDのコピーを武漢につくる」(玉越俊哉董事総経理)ことを目的としていた。主要顧客は中国内を含めた金融機関で、そのシステム開発を担う。武漢に来た理由は「質の高い開発者となり得る素質をもつ人材が豊富なこと」(同)という。今では、金融機関に限らず、他の業種へのアプローチも開始した。
東湖周辺の開発区の整備事業を担当する東湖国家開発区のオフィスビルIT関連の教育機関が充実 各国ITベンダーが求める人材を輩出

武漢軟件工程職業学院
計算机与軟件学院
王路群院長 武漢市全体の大学に在学する学生は110万人に達する。大学を含めた教育機関は、OVSPのある開発区に集中している。この一角でIT産業などの人材育成と就職支援などを行っている専門学校が「武漢軟件工程職業学院」だ。この学院内では、日本の大学でいう学部にあたる「計算机与軟件学院(パソコンソフトウェア学院)」が、OVSPなどのIT会社へ人材供給する専門的な技術教育をしている。
パソコンソフトウェア学院では、主に、ソフト技術、コンピュータとインターネット/情報管理、システム開発、ソフトテスト技術、画像処理/ウェブ制作の五つの教育内容を揃えている。同学院の王路群院長は「当院は欧米や日本のITベンダーから要望を受けて、中国政府で標準化した内容をもとに時流にあった教育を提供している。ITベンダーの担当者が直接講義をする機会も多い」と話す。最近では、欧米向けだとソフト開発とテスト技術が、日本向けだとアウトソーシング関連の技術への要望が強いという。パソコンソフトウェア学院からは、毎年1100人余りの学生が卒業する。就職先として最も多いのが、マイクロソフトとの合弁会社で上海にある徴創軟件で、無錫の海耀、武漢の博産やHPが続く。王院長は「今後は、インターネット専門の技術やスマートデバイス向けウェブサイト制作などの教育を強化するほか、英語や日本語の会話能力を高めていく」と、新たな方向性を語ってくれた。

毎年約1100人余りの学生を輩出するIT技術の専門学校
武漢軟件工程職業学院の教室