パートナーとともに中国事業を展開
戦略投資を惜しむな
【上海発】中国パートナーの力を生かす“5か条”が示すのは、具体的にどのようなことなのか──。日本のITベンダーやSIerは、地場パートナーとともに中国ビジネスの立ち上げに取り組んでおり、互いに強みを補完し合いながら市場を開拓している。中国IT市場の拡大基調が続くなか、上海での取材で明らかになった実情をレポートする。
『週刊BCN』の中国取材は、取材に必要な記者用の「J-2」ビザを取得して行っている。政治レベルで日中関係が悪化すれば、取材ビザが取りにくくなるといわれるが、今回(7月下旬)も、中国領事館に申請してわずか数日で、問題なくビザを取得することができた。
上海での宿泊先は、大型デパートやレストランがひしめく南京東路駅周辺にある。南京東路には和食のレストランが多く、上海の若者やビジネスパーソンが日本風ラーメンやカレーライスを楽しむ風景を見ることができる。ビジネスの世界でも、「日本」というブランドが高い評価を得ている。中国のITベンダーが日本の技術を取り入れてサービスを開発し、日本の信頼性や高品質をテコに、現地のユーザー企業向けに展開する事例が増えつつある。政治レベルで日中関係がさまざまな問題に直面している状況にあっても、中国の一般市民やビジネスパーソンの大半は、反日感情を抱いてはいないようにみえる。
日本ITベンダーの中国事業は、新しいフェーズに入ろうとしている。現状では、中国に進出している日系企業を中心にビジネス展開しているベンダーはまだ多いが、現地のパートナーを獲得して販売網を築き始めたり、地場企業への導入実績を上げたりするベンダーも現れている。中国ビジネスは、決してすぐに収益を生むものではない。上海のシステムインテグレータ(SIer)である上海万序計算機科技の董正剛総経理は、「中国企業向け事業を中長期的に成長させるために、今の段階では戦略投資を惜しまないことが重要だ」と、ビジネスの基盤をしっかり構築する必要性を強調する。
日本の技術を積極活用
今回の取材は、日本ITベンダーと中国ITベンダーとのパートナーシップづくりがどのくらい進んでいるかをテーマとして、日本ベンダーと提携している地場SIerのキーパーソンに共同事業展開の進捗状況をたずねた。取材した中国ベンダーは、「サービス」をキーワードとする新しい事業の拡大に懸命で、積極的に日本ベンダーの技術を活用し、共同ビジネスを本格化することに取り組んでいる。
急成長中のデータセンター(DC)事業者で、日立システムズの認定DCパートナーである上海有孚計算機網絡のオフィスからは、上海市の北部に位置する楊浦区を一望することができる。オフィスのすぐそばにはIT関連の研究開発に強い復旦大学のキャンパスが広がり、街は有望な若手人材の活気に溢れている。中国は速いスピードで経済力が高まり、日本ITベンダーの市場としてますます注目を浴びている。
中国事業のカギを握るのは、中国ITベンダーとの深いパートナーシップだ。取材を通じて、日中間ビジネス提携の「成功の秘訣」を探った。
【記者の眼】
中国ビジネスに乗り出すのはまさに今がチャンス!
中国ITベンダーの日本企業向けオフショア開発事業が縮小する傾向にあることは、中国ビジネスの展開を考えている日本のITベンダーにとっての大きなチャンスになる。中国オフショア開発事業者の多くは、オフショア開発に集中してきたために、独自のコア技術をもっておらず、事業の新しい柱を立てるために、何を商材にすれば、中国企業向けのビジネス展開ができるかについて悩んでいる。
日本ベンダーが中国でニーズの高い技術を提供し、中国側のパートナーが製品をローカル化し、現地での販売を手がける──。このモデルは、決して新しくはないが、オフショア開発の需要が減っており、中国ベンダーがビジネスの見直しを迫られているなかで、中国側はこれまで以上に日本技術の活用に積極的に取り組む姿勢をみせている。中国ベンダーと組んで、中国市場の開拓を図るのは、まさに今がチャンスなのだ。
中国で自社にぴったりのパートナーを探し、提携を進めるために、現地へ行って、数多くの地場ベンダーと膝をつき合わせて話をすることが欠かせない。とくに中堅・中小規模の日本ITベンダーの場合、定期的に中国に出張することはリソース的にかなり大変だが、事業拡大に欠かせない戦略投資の一つと捉えることもできる。中国ビジネスを立ち上げ、成長させることは楽ではないが、将来のビジネス拡大に向けて、中国は大きな可能性を秘めている。