インターネットイニシアティブ(IIJ)で、クラウドサービス「IIJ GIO」などを扱い、公共セクター向けの営業を担当する向佐登司さん。入社4年目に入って、大型案件を相次いで受注した。1年目のつらい経験をもとに仕事のやり方を再構築して、現在、「IIJのクラウドサービスの第一人者」として絶好調の成績を上げている。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/横関一浩)
[語る人]
●profile..........向 佐登司(むこう さとし)
京都大学の大学院を修了後、2009年4月、インターネットイニシアティブ(IIJ)に入社。金融業のユーザー企業に向けてインターネット回線やクラウドサービス、システム構築を組み合わせたソリューションの提案業務に従事する。2012年4月に公共システム事業部に異動した。現在、教育機関や公的機関に対して、営業活動を行っている。
●会社概要.......... インターネット接続サービスをはじめ、WANサービスやシステム/ネットワーク構築を提供する。2012年3月期の売上高は973億円。従業員数は1923人。
●所属..........公共システム事業部
営業部 営業2課
●営業実績.......... 入社2年目から、クラウドサービスを中心に、数多くの大型案件を獲得。2012年度、数億円規模の新規案件を受注し、社内のセールスアワードを受賞。
●仕事.......... 官公庁や大学、公共色が強い民間企業に向けた提案活動に携わっている。今年4月に現職に配属されたばかりなので、主に既存顧客を訪問し、客先との関係づくりに取り組んでいる。1日あたりの訪問件数は平均2件。社内のエンジニア部隊と密に連携し、お客様のニーズにぴったり合ったソリューションの提案を心がけている。
A4用紙一枚で提案
私は、営業訪問するとき、提案書はつくらない。A4用紙一枚でお客様にお話しする内容をまとめ、それをたたき台として、商談に臨む。型通りのセールストークにとらわれたくない。要点をまとめた紙一枚だけで自由に話せば、相手にとっても話しやすい雰囲気になるし、お客様の課題やニーズを具体的に聞き出すことができる。
最初から完璧な提案をしようとは思っていない。だからこそ、訪問先を辞すときは、必ずお客様から宿題をいただくことになる。そして、宿題の答えを明らかにするために、その場で次回のアポイントメントを取って、再度、お客様を訪問する。次回の訪問の際は、ついでに見積もりも出して、クロージングのフェーズに入るように心がけている。
こうした提案方法を始めたのは、入社2年目。おかげで、どんどん注文を受けるようになり、2年目は、売上目標の5.5倍、550%の達成率を記録することができた。550%なんて、入社1年目のときには想像もつかなかった数字だ。1年目に私が上げた実績は、恥ずかしながらゼロだった。
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出身は滋賀県。親が花屋を経営していることもあって、京都大学の大学院で農学を研究した。就職するにあたって、地元で農業関係の仕事に就くことも考えた。しかし、農業よりも変化が激しいIT業界のほうが自分にぴったりだと考え、IIJの面接を受けた。そのときの面接官に、「当社では、1年目は新人、2年目は中堅、3年目はベテラン」と説明してもらった。私はそのスピード感に惹かれ、入社を決めた。
ところが、1年目は思った以上にしんどかった。当時配属されていた部署は、個性の強い先輩方が多く、みんな考えが違うので、深夜まで案件への対応について議論を繰り返す日々が続いた。経験豊かな人ばかりのチームのなかで、新人の私は経験や知識が不足し、いくら頑張っても、自分が担当する案件が受注に至らなかった。まったく実績を上げられないことが恥ずかしく、親にも友人にも、誰にも打ち明けることができなかった。
そうしたなか、1年目の最後に心もからだも疲れ果てて、有給や代休を全部取って2か月ほど会社を休んだ。どこかに旅行に出かけたわけではなく、単に「会社に行きたくない」という気持ちで部屋にこもって過ごした。会社に戻ったときは、先輩からの自分に対する目が以前よりも厳しくなっていた。「やばい! クビになる」と実感し、その強い危機感をバネに、仕事に対するスタンスを根本から考え直そうと思った。