愛知県は、税務や人事・給与、住民情報管理など合計210の情報システムを運用している。約1000台のサーバーを活用した巨大なシステムには、年間75億円もの巨額な費用をつぎ込んでおり、運用業務の効率化とITコスト削減が至上命題だった。そこで愛知県は、庁内に設置する大型サーバールームに構築するプライベートクラウドにシステムを移行させるという大型プロジェクトを進めることを決めた。
ユーザー企業:愛知県
人口741万人(総務省)を抱える、中部地区で最大の県。域内総生産額は31兆8910億円(内閣府)で、製造業者が多い。トヨタ自動車など、全国でビジネス展開する著名な製造会社が、県内に本社を構える。
システム構築会社:NTTデータ東海
プロダクト名:プライベートクラウド(カスタマイズ)
【課題】210システムの運用業務に限界
愛知県の人口は、47都道府県のなかで4番目に多い。それだけに、県が運用する情報システムは、他県に比べて大規模なものとなっている。運用するシステムは、税務や人事、住民情報の管理システムなど、用途に合わせて使い分け、大規模なものから小規模なものまで複数あり、その数は合計210システムにもなる。保有するサーバーは約1000台で、コンピュータの種類でみると、メインフレームで稼働するのが約40システム、オープン系サーバーで構成するのが、約170システムだ。
愛知県は、早い時期から業務処理にコンピュータを活用してきた。およそ50年前に日本IBM製のメインフレームを数台導入し、業務の効率化に役立てていた。その後、メインフレームを運用するスタッフが減少する傾向にあることを懸念し、徐々にIAサーバーなどのオープン系サーバーを活用したシステムに移行してきた。その流れで、メインフレームとオープン系サーバーが混在する、現在の複雑なシステムが形成されてしまったのだ。
地域振興部情報企画課の草本和馬主幹は、現在のシステムについて「メインフレームの堅牢性は魅力だが、運用技術者が減少していることは大きな不安要素。また、愛知県の年間のIT投資額は、約75億円。1000台以上のサーバーを保有することで増えている運用コストも問題点」と打ち明ける。
【解決と効果】2013年度から徐々にクラウドへ移行
愛知県は、この巨大システムをバージョンアップする方法として、プライベートクラウドの構築・運用を選択した。2010年度に、総務省が「自治体クラウド推進本部」をつくり、自治体のクラウド導入を後押ししたことで、愛知県は2010年度に「自治体クラウド等研究会」という組織を設置し、システムのクラウド化を検討していた。2011年3月11日に起きた東日本大震災をきっかけとして、安全なシステムのあり方を検討するなかで、クラウドに移行するのが最適だと判断した。同年12月に公表した愛知県のIT化戦略「あいちICTアクションプラン 2015」で、13年度から新たに構築したプライベートクラウドへシステムを移すことを盛り込んだ。今は開発の最終段階に入っている。
まず、第一段階として、メインフレームで稼働している中小規模システムをサーバー統合して、プライベートクラウド環境に移す。税務や給与、県営住宅の管理システムといった大規模でミッションクリティカルなものは、このタイミングではプライベートクラウド化せずに、個別のシステムに移行させる。第一段階でクラウド化するシステムは、210システムのうち、12システムを予定している。第二段階としては、個別のサーバーシステムをIT機器の更新時期に合わせて、随時クラウドに移すというプランだ。
プライベートクラウドのシステムは、ITベンダーのデータセンター内に置くのではなく、庁内の大型サーバールームに構築する。開発するITベンダーは一般競争入札により選定し、落札したNTTデータ東海が担当している。
クラウドへの移行は13年度から始まる予定で、成果はまだ未知数だが、計画では第一段階で年間約1億円のコストを削減することを見込んでいる。愛知県は、県のシステムをクラウド化するだけでなく、ITコストの30%削減と災害に強いシステムづくりを目的に、「あいち自治体クラウド推進構想」を立案し、県内の各市町村に対してクラウドの導入を推進、支援するという。
地方自治体が運用するシステムのクラウド化は、他地域でもみられる取り組みだが、愛知県のプランは大規模で先進的だ。将来的には県内市町村にもクラウドの導入を勧めており、この大型クラウドプロジェクトが成功すれば、愛知県は他地域では類をみないクラウド先進地区になる可能性がある。(木村剛士)
3つのpoint
大規模システム運用の手間とコストを省く
メインフレームの技術者不足を懸念し、クラウドに移行
将来的には県内の市町村にもクラウドを推薦