サイボウズ社長の青野慶久は、国内グループウェア市場の大規模案件で「Google Apps」とガチンコ勝負になり、自社のコンセプトを「世界で通用する製品」に転換した。メールシステムを開発・販売するサイバーソリューションズ社長の秋田健太郎はその逆だ。「Google AppsもOffice 365も、ガチンコにならない」。国内で独自性を求め、クラウドサービスに早期参入。日本企業固有の要望を100%受け止めて、製品開発に生かす。(取材・文/谷畑良胤)
サイバーソリューションズは、グーグルや日本マイクロソフトの国内案件をすべて奪っているわけではない。「強いていえば、競合しないだけだ」(秋田)。企業が100社あれば、すべてがグーグルや日本マイクロソフトのサービスを選択するとは限らない。サイバーソリューションズのSaaS型メールシステム「CYBERMAILΣ(サイバーメールシグマ)」などは、100社のうちの数社に「指名」で選ばれる。
情報系システムのなかで、メールシステムは普及率でグループウェアを上回る。企業規模が大きくなればなるほど、情報漏えいなどのセキュリティポリシーが厳格になる。サイバーソリューションズは、クラウドサービスでも「安全で使いやすいサービス」(秋田)を徹底的に追求し、認知を得た。だからこそ、価格勝負には乗らない。乗らなくても、「Google Apps」導入を諦めた企業が勝手に落ちてくる。
サイバーソリューションズのメールシステム利用者は、OEM供給を含めて約1万社で、利用者数は100万人に達する。メールシステムの全売上高に占める比率は、パッケージが35%、クラウドサービスが40%、残りは保守契約料だ。後者の2項目は、契約解除やリプレースが少なくストックビジネスになっている。クラウドの成長率は、年率170%と安定。それでも、秋田は警戒を緩めない。「メールがFacebookに取って代わるかもしれないし、既存の競合勢力がまったく新しいメールシステムを出してこないとも限らない」からだ。

端末環境が変化してもメールシステムの重要性はまったく同じ(本文と写真は関係ありません) だからこそ、
前号(『週刊BCN』2月11日号で既報)の通り、パブリック型だけでなくプライベートクラウドへ本格参入するのだ。「今年(2013年)は、システムインテグレータ(SIer)の変革期」と秋田はみている。パッケージかクラウドか、顧客は両にらみで選択肢を要求する。SIerに同社の“武器”をもってもらい、クラウド商流を自ら改革しようとしている。
一方、大阪に本社を置く独立系ソフトウェアベンダー(ISV)で、2001年に凸版印刷の社員がスピンアウトして設立したeBASEは、今からクラウドサービスに本格参入する。同社は、商品情報のデータベース(DB)システムの販売・開発会社として設立された。「食の安心・安全」や「製造物責任」などを旗印に、大手の小売業やメーカーに業界別商品情報交換用のパッケージを提供し、どんなITベンダーの参入も許さない領域を築こうとしている。
そのeBASEだが、取締役の窪田勝康が「98%モデル」という通り、商品(製品)情報の企業間情報交換プラットフォーム「eBASE」は、98%がフリーミアム(無償、同社では「ボランティアム」と呼ぶ)で、残り2%からしか収益を得ていない。そのフリーミアムの領域を少額の付加価値を加えて、徐々に有償化に転じるうえで、クラウドが有力な武器となると判断して、積極的な活動を開始した。eBASEのビジネスモデルは、一度聞いても理解はできないだろう。「だからこそ、参入障壁が高い」(窪田)のだ。クラウドの取り組みは後発であっても、びくともしない独自領域をもてば強くなる。[敬称略]