安倍内閣が繰り出した財政出動で、日本経済に明るいムードが漂い始めた。産業界が景気の浮揚に沸くなかにあって、待ったなしの構造改革を余儀なくされている受託ソフトウェア業界の先行きは不透明なままだ。企業システムがクラウドへ向かうなら、ITベンダーはそこへ向かえばいいだろう。ただし、日本の多くの中堅・大企業の要望は、未だ独自開発システムが中心。一方のシステム開発側も、受託ソフト開発に安住し続け、改革が進まずに膠着状態が続く。打開策はあるのか。
東日本大震災の翌年、東北電力の受託ソフト開発案件は、最高時1500億円あったものがゼロになった。情報サービス産業協会(JISA)の幹部は、「このまま構造改革が進まなければ、受託ソフト開発は10年後に半減する」と断言する。クラウドの波も、小波から大波に変化している。受託ソフト開発業界は、今や危機に瀕しているが、ITベンダーも企業も変わることができないでいる。
1月21日、IT業界の有志が運営する次世代ICT会議が、「会社を変革する、社会を変革する、次世代イノベータ大会議」と題し、ITベンダーと企業関係者がワールドカフェ方式(カフェのような気軽な雰囲気でテーマに沿った話をする手法)で議論した。そのなかで、ITベンダー関係者からは、現状の膠着状態を打破するために、「企業のIT部門を強くすべく行動する」「(ITベンダーの)受け身の姿勢を変える」など、企業の意識を変える積極行動を取るべきという声が相次いだ。
ITベンダー側は、これまで企業が100%望むシステムを受託開発することこそ、顧客満足度を得られると考えていた。しかし、受け身のままでは、ITベンダーは儲けが出る受託ソフト開発に安住したままだし、企業も変化の激しい世界経済から取り残されていくことは目にみえている。
JISAの企画委員会が、2月1日に開いた「第4回 構造改革シンポジウム」で、島田俊夫委員長(シーエーシー会長)は、「年頭にあたり、皆さんと意識を共有したい。(アベノミクスの景気浮揚に)浮かれないことだ」と、改革断行の歩を止めることに懸念を表明した。今年は金融関連の案件で超大型の受託ソフト開発が創出されると噂される。だが、「3年後も(企業から)発注され続けているかというと、そうではない」(同)と、危機感を露わにし、構造改革を急ぐよう迫った。
JISAによれば、企業の間には「内製化」の動きが目立ってきているそうだ。十数年前、企業が情報システム部門を独立組織にして子会社化し、大手ITベンダーがバックアップまたはM&Aして、ソフト開発を担うというかつてのやり方がまた盛んになってきたというのだ。不景気にあって、不要不急の開発が減少しているために、外注を切って社内でワークシェアリングする手法だ。
だが、内製化で効率化しコスト削減するやり方は、下請け企業の犠牲のうえに成り立つ。景気がよくなって案件が増えれば、再び人海戦術を展開するために開発者が必要となる。人月商売、多重下請け構造が再び拡大する可能性を秘めている。
JISAのシンポジウムは、これらの動きに歯止めをかける緊急案件として開かれている。第4回では、いくつか打開策となり得る具体策が出ていた。アクセンチュアは、システム開発して企業の成長の度合いに応じて対価を得る「成果報酬型」を拡大中だ。日本IBMもこの手法を取り入れ始めた。完成し、導入して「はい、終わり」ではなく、人材を投入し、継続的に開発する。ヒトを投入すれば、ITベンダーは切られにくくなり、長く対価を得られる。
また、ベンチャーのソニックガーデンは、「要件定義をしないとつくることができない」といった業界の悪しき習慣を打破するために、「納品のない受託開発」をクラウドで実現し、20%の粗利率を確保している。「受託開発+1」。この会で出た解だが、残念ながら、これは過渡期の折衷案であり、根本的な解決策とはいい難い。後ろからは、クラウド利用の流れが迫り、相対的に受託ソフト開発が減る世の中になると予想されているからだ。(谷畑良胤)

JISAの「構造改革シンポジウム」では、いくつかの打開策が示されたが……