昨年9月に発生した「尖閣諸島」を巡る問題は、ひと頃に比べて表面上は落ち着いてきているようにみえるが、いまだくすぶり続けている。こうした政治的なリスクは今後もある程度織り込みながらも、市場として大きな魅力をもつ中国で、日本企業はどのようにビジネスを展開していくべきなのか。連載第3回目は、中国で製品を売るための販売網の構築や製品のローカライズ、現地の関係者との人脈形成などをテーマに、ビジネスを成功させるための秘訣を論じてもらった。(構成/本紙編集委員 谷畑良胤)
中国で通用する商流と人間関係を見極めろ
販売網の構築を論じる前に、まず語っておきたいのは、日本と中国とでは文化や商慣習を含めて、「売り方」と「欲しいもの」がまったく異なるということだ。中国で通用する商流を見つけてそこにどうやって自社製品を乗せるかを考えるべきだ。そのためには、競合製品が中国でどのように販売されているのかを調査する必要がある。
ところが、日本企業は商流を意識せずに、日本で培ってきた自分たちのやり方で販売しようとしたり、相手の規模の大きさだけをみて現地企業と販社契約を結んでしまったりした結果、失敗しているケースが少なくない。
中国は共産党が一党支配する国ではあるが、あくまで共和国であり、行政は上から省級、地級、県級、郷級という四層の行政区によるピラミッド構造となっている。よく誤解されることがある。日本人は北京に進出して中央政府とコネクションをもてば、中国全土でビジネスがすべてうまくいくと思っているが、これは幻想である。行政は省単位、市単位、区単位であり、共産党は直接、ビジネスには手を出さない。実際にビジネスを手がけているのは、党幹部の子息、その親類や関係者が経営層に就いている国営・市営企業などだ。コネクションをつかむのであれば、彼らとの間にこそパイプをもつ必要がある。
ただし、便宜を図ってもらったり、ビジネスを円滑に行ううえでも共産党や政府のバックアップは不可欠だ。地方政府は中央政府によって課せられるGDP(国内総生産)成長率のノルマ達成に必死である。今後は「成長と安定」というキーワードに縛られ、しかも失敗は許されない世界なので、彼らの実績に寄与して、地方政府に貢献できるビジネスモデルと投資予定を提案すれば支持も得られやすい。
販売成功のカギはターゲット設定の明確化
中国での販売を成功させるには、前回も触れたが、売ろうとする製品のターゲット設定を明確化することが肝心だ。そして、「売れる商流」を見つけるためにも重要な点がいくつかある。それを順を追って解説する。
まず第1は、リサーチ会社の選定だ。現地に根差し、現地の企業や行政団体に対してヒアリングし、しっかりとした情報を拾ってくることができるところに依頼する必要がある。それによって自社製品に販売の可能性があるかどうかが、紙ベースである程度まで判断できるだろう。
次の段階は、プレマーケティングになる。ここで大切なのは、複数の販社に期間限定で依頼し、そこで各社の力量を図ることだ。中国には「ぜひ、自分に売らせてほしい」という商売人や企業がいくらでもある。期間を半年に限定して5社程度を比較すれば、相手の力量や本気度がつかめる。加えて、その商品自体が売れる見込みがあるかどうかも判断できるし、場合によっては進出をあきらめたり、自社ブランドにこだわらずOEM供給することなどの選択肢もある。初めから1社に絞って販売契約をしてしまえば、契約の縛りが生じるので、後になって見込み違いがあっても何の打開策もとれず、契約期間中は赤字を垂れ流したままになるといった事態に陥ることは往々にしてある。
次に、プレマーケティングの結果、相手を決めて販社契約する際に注意しなければならないのは「商慣習の違い」である。最も大きな違いは、中国ならではのバックマージンが存在することだ。日本でもバックマージンはあるが、中国には表だけでなく裏のバックマージンがあり、それをどこまで許容できるかが重要になる。販売を進めるなかでは、製品を現地に合わせてローカライズする必要も出てくる。そこで契約期間はできるだけ短くして、半年単位で見直すような契約にしたい。
最後に商品自体についていえば、日本人が考えるほど中国人は高いレベルのモノを求めていない。はっきりいえば、「見た目のよさ」だけで判断し、細かい中身やスペックまでは要求しないのだ。例えば、ソフトウェアであれば、販売してくれる企業の売り上げ向上にどれだけ貢献するかがすべてで、その他の機能には関心がない。売り込み方としては、多機能や高機能を謳うよりも、売上向上、生産性向上、コスト削減、情報漏えい防止といったピンポイントのキーワードのほうがよほど効果がある。そして実際に安価で導入してもらってから、追加機能を加えて課金を増やしていくやり方をとったほうが確実にビジネスが広がる。
中国人は全員が商売人 日本人はしたたかになるべき
これは中国ビジネスに限ったことではないが、海外でビジネスをするうえで、日本人が考えなければならないのは、「日本人にとっての利益」と「中国人にとっての利益」の違いをしっかりと認識することだ。中国人は全員が商売人であり、まず第一に自分自身の利益を考える。具体的には、この相手とつき合うと自分にどんなメリットがあるかで物事を判断する。一方、日本人は「欲」を前面に出すことをよしとしない文化があって、ビジネスの上に絆、忠誠心、友情などを持ち込んでいたりする。これは世界的にも貴重な美徳ではあるが、グローバルの熾烈な競争を勝ち抜くには、はっきりいってマイナスになる。その気持ちは大切にしながらも、自分たちの利益は何かということと、相手にとっての利益は何かをしっかりと考え、もっと、したたかにビジネスそのものや、組むべき相手を考えるべきだ。
【Profile】WEIC 内山雄輝社長
1981年、愛知県名古屋市生まれ、31歳。2004年3月、早稲田大学第一文学部中国語・中国文学専修卒業後、WEICを設立。人間が言葉を覚える過程の言語学理論をシステム化し、中国語をはじめとするeラーニングサービスを日中両国で展開。中国でのビジネス経験と人脈を生かし、日本企業の中国進出を支援。地方政府および現地企業との戦略提携やグローバル人材育成戦略の豊富なノウハウに定評がある。夫人は中国人で、数多くの日本企業の中国法務を代弁する著名な弁護士を父にもつ。MIJSでは「海外展開委員会」の委員長を務め、中国やASEAN進出に関する現地との折衝などを担当している。