富士通(山本正已社長)が、同社製品を主体に販売する全国のソリューション・ディーラーと取扱量上位ベンダーの販売を活性化する新たな施策を開始する。安部豊・執行役員パートナービジネス本部長が本紙の単独取材に応じて明らかにした。全国のディーラーがもつ自社製品・サービスを相互に紹介し、販売するポータルサイトを構築するほか、上位ベンダーには「アカウント・プラン」と呼ぶ個別の支援策を講じる。ポータルサイトは、地域限定で販売する製品・サービスを富士通ディーラー網で全国に流通し、同社製品の拡大につなげる。これらの施策を講じることで2015年度(2016年3月期)までに、全売上高に占めるパートナー経由の販売比率を、現在の25%から30%に伸ばすことを目指す。(谷畑良胤)

安部 豊
執行役員
パートナービジネス本部長 富士通のITソリューションをビジネスの軸にするソリューション・ディーラーは、全国に400社弱存在する。富士通の資本が入っているSE子会社は、これに含まれない。富士通の調べでは、ディーラーのうち100社程度が自社独自の製品・サービスを所有し提供している。
昨年度は、ディーラーを含めたパートナー経由の販売額が、自治体、ヘルスケア、文教向けを中心に、前年度比で2ケタ成長した。ただ、各社の販売網は、営業リソースなどに限界があり、地元を中心とした得意エリアに限定されている。
新たな施策の一つであるポータル・サイトは、地域の実状に応じて特定エリアで限定的に販売している各ディーラーの製品・サービスを全国のディーラーに紹介し、販売網を拡大する役割を担う。サイトの名称は明らかにしていないが、今年6月までに開設する計画。サイトには、業種・業態・業務別にディーラー製品のほか、同社SE子会社や独立系ソフトウェアベンダー(ISV)製品、富士通製のハードウェアやミドルウェアなどでポートフォリオを構築し、各製品・サービスを掲載する。
ディーラーの製品は、オンプレミス(企業内)とクラウドの両面で提供できる環境を整備する。2011年にパブリック型クラウドサービス「Fujitsu Global Cloud Platform(FGCP/S5)」を開始しているが、この基盤を利用して、各ディーラーがユーザー企業に提供できるようにする。
安部執行役員は「各ディーラーが、営業エリアを拡大するにしても、クラウドサービス環境を整えるにしても、投資リスクが伴う。自らの売り物をディーラー同士で共有することで、相乗効果を生み出す」と、ディーラーの資金的な負担を軽減し、富士通製品をメインで販売するパートナーを増やす。昨年度はこの施策の前段として、同社主催の「得意技交流会」を開き、約30社のディーラーが参加して、自社製品・サービスの紹介を行った。
一方で、富士通製品の取扱量が多いディーラーを選定し、各社に特定の営業やシステムエンジニアなどを配置する「アカウント・プラン」という施策を開始する。安部執行役員によれば「各ディーラーの経営幹部と、販売・開発の両面で、中・長期的な経営プランを立案し、これを実行していく相互の体制を固める」方針だ。
「アカウント・プラン」の詳細は明らかにしていないが、伸長率が高い自治体やヘルスケア、文教などの分野に加え、国が支援策を強化している医療・福祉・介護や地域特性に応じた民需の掘り起こしに関する販売・開発の両面を共同で行っていくとみられる。安部執行役員は「売り買いだけでなく、リソースが不足しているシステム開発の面でも協力関係を築く。販売額の大小にかかわらず、『アカウント・プラン』に参画するディーラーを求める」と話す。
富士通の販売体制は、大手企業向けが直販で、中堅民需市場向けがグループ中核ベンダーの富士通マーケティングを中心に体制を構築し、地域に多く存在する中堅下位から中小企業をソリューション・ディーラーが開拓する構図が鮮明になる。安部執行役員によれば、「15年度(16年3月期)までに、この比率を5ポイント上げる」と、全体の売上高も伸ばす計画だ。具体的な数値は明らかにしないものの、パートナー経由の販売を大幅に引き上げる意欲的な見通しを示している。
表層深層
クライアント/サーバー(C/S)型の企業システムが主流の時代、富士通のパートナー戦略は、同社製のサーバーやミドルウェアなどに主要ISVの製品を組み込み、検証済みの手離れのよいシステムを、全国のディーラー網で販売していた。
ディーラー側はこれらソリューション・パック化されたモノを販売してきたが、粗利が低い。そのため、利益を確保する目的で自社でソフトウェア製品を開発し、地域に拠点を置く特性を生かした販売を強化し始めたのが、8~10年ほど前のことだ。富士通ディーラーに限ったことではないが、こうした動きが地域特有のIT製品を生んでいる。
だが、顧客の要求も年々変わり、クラウドコンピュータを前提とした提案が求められる。新たなクラウドサービスを自前で構築して提供するには、販売・開発の両面でリソースや資金力が不足している。将来的にクラウドの普及が進むのは間違いないが、ディーラーはビジネスモデルの変革が進まない。
この膠着状態を打破するために、富士通はディーラーの既存事業を伸ばしつつ、クラウドなど新規事業を軌道に乗せる支援を目的として、ポータルの開設などに踏み切った。これに、富士通製品が付帯して売れていく構図をつくり出す。
オフコン時代に築いた国内最大といわれるディーラー網。ただ、多くのディーラーは富士通以外の製品も販売している。取扱量を増やすには、仕組みだけでなく人的な負担増をいかに避けるかが重要になる。