IT製品・サービスを「押し売りする時代は終わった」。システム運用管理大手のビーエスピー(BSP)社長の竹藤浩樹は、時代の変化を実感している。クライアント/サーバー(C/S)型全盛期ならば、大手企業のITシステム担当の課長レベルで年間数億円のシステム費を決裁することができた。運用管理製品でいえば、コスト削減幅の大きさを訴えれば、決裁は早まった。しかし、今は違う。「顧客は『買わされたくない』と思っている」(竹藤)。だからこそ、経営課題に直結した提案が求められている。(取材・文/谷畑良胤)
企業のITシステム部門は、運用担当と開発担当とに役割が大きく分かれる。従来は運用担当が花形だった。企業規模が大きくなるほど、運用担当者の決裁額は高額になった。しかし、クラウドの普及とともに、経営者やITシステム担当者も、認識を新たにした。IT資産の管理という仕事よりも、上流の工程へ集中できる状態を求めている。
「クラウドは、企業のITインフラをお守する物理的な管理から解放し、本来の姿(仕事)への変革を支える技術だ」。BSPの竹藤は心底そう思う。2006年、国内有数の食品卸売老舗企業の国分が、基幹系システムを全面刷新してオープン化する際、BSPのITIL(IT運用・管理業務の体系的なガイドライン)プロセス管理ツール「LMIS(エルミス)」を導入した。
BSPは、ここを起点にして業績を大きく伸ばす。多くの企業では、この頃から「部分最適」から「全体最適」へとITシステムを進化させてきた。いまだに「部分最適」にとどまっている企業は少なくないので、BSPの出番はまだまだある。だが、ここを主戦場にしている限り、次の成長はない。

プロダクトを押しつけても、そのよさをいくら訴えても、ITで企業の成長に貢献することはできない。半面、ITベンダーとして利益を追求しなければならない。その葛藤のなかで、昨年導き出したのが「運用レス」という方法論(同社では「メソドロジ」という)である。竹藤は言う。「ITシステム運用部門を、繰り返しのルーティン作業や労働集約型の作業から解放する」。今は、事業成長や経営に貢献するサービス部門への変革を手助けする戦略へと方向を転換している。

BSPとビーコンITのユーザーイベント「Beaconユーザシンポジウム」で、BSPの竹藤浩樹社長は「運用レス」のコンセプトをじっくり説明した 今年2月、BSPは「運用レス2.0」へバージョンアップを図った。LMISやジョブ管理ツール「A・AUTO(エーオート)、IT部門の変革フレームワーク「ASMO」などに加えて、「運用とクラウドをつないで『運用レス』を実現する基盤」という触れ込みのクラウドサービス「Be.Cloud(ビークラウド)」と運用業務代行を行う運用BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを開始した。
「Be.Cloud」は、顧客がデータセンター(DC)を物理的に所有することなく、仮想的にリソースを利用し、移行・構築・運用などのサービスを利用できる。これを基盤にして、BSPでは、運用中のシステムを生かしながら、顧客に最適なクラウド移行計画を支援する。企業側では、ITインフラのサイジングやネットワークの選択など、将来にわたって柔軟に対応できる。取締役の古川章浩は、「ITインフラやシステムの維持管理業務から脱却させる」と話す。同社が、運用管理のツールベンダーから全ITインフラをワンストップで取り扱うサービスベンダーへと変貌した瞬間だ。
「間販(間接販売)は苦手」(竹藤)としていたが、サービス指向に移行したことで、DC事業者や競合メーカーの製品が搭載されているシステムも含めて、密に連携する必要性が高まった。BSPのビジネスモデルの変革は、クラウド時代のITベンダーの立ち位置を示している。[敬称略]