業務ソフトウェア分野におけるクラウドサービスのパイオニアであるピー・シー・エー(PCA、水谷学社長)。サービス開始から丸5年を迎える5月末には、累積導入実績が2000社を超える見込みだ。決して最初から順風満帆なビジネスではなかったが、近年、加速度的に実績を伸ばしており、大口案件も増えてきた。「来年の同時期には4000社、2~3年後には1万社を達成したい」と野心的な目標を口にする水谷社長の思惑は現実のものになるのか。これまでの経緯と今後の戦略を検証した。

水谷学社長 PCAの主戦場である中堅・中小企業(SMB)は、クラウドサービスの普及が遅れており、ノークリサーチが昨年6月初旬に行った調査の結果では、基幹業務分野でクラウドサービスを利用しないと答えた企業が約80%を占めた。しかし、「この1年でユーザー側からクラウドサービスの提供を要望するケースが確実に増え、状況が変わってきた」というベンダーの声もあるように、大手ベンダーを中心にSMBのクラウド需要を強く意識した取り組みが目立ってきた。
PCAはそうした動きに先がけて、およそ5年前にクラウドサービス群「PCAクラウド」(当初の名称は「PCA for SaaS」)の提供を開始した。しかし1000社導入を達成するまでに、3年半の期間を費やしている。クラウドサービスは単価が安いので、ユーザーにとっては導入のハードルが下がる。一方、販売パートナーは儲けが薄いので積極的に売りたがらない。この二律背反の課題を前に、料金プランの試行錯誤を重ねることになった。
拡販の突破口になったのは、一定期間の利用料金をまとめて支払う「プリペイドプラン」の設定だ。水谷社長は「日本の市場はクラウドサービスも販社が動かないと普及しない。数か月、数年単位で課金し、期間に応じた割引もあるプリペイドプランによって、パートナーとユーザーの双方に多様な選択肢とメリットを提供できた」と話す。このほか、サーバーの月間稼働率99.95%以上を保証するSLA(サービス品質保証制度)の設定や、APIの公開なども実を結び、1000社導入から1年半で2000社を達成しようとしている。
では、来年同時期に4000社、そして将来的な1万社達成に向けてどのような手を打っていくのか──。水谷社長が目の前にある特需として指摘するのが、「消費税改正」だ。「これを機に基幹業務システムの刷新に乗り出すユーザーは相当あるはず。クラウドは、これからどんな法改正や税制改正があっても、システム改修費用をユーザーが負担する必要がない」とメリットを強調する。また、5年など長期のプリペイドプランを使えば、消費税引き上げ前に将来の分の料金を支払うことになるので、ユーザーにはお得感も出て、販社への実入りも大きくなる。両者にそうしたメリットを訴求していきたい考えだ。
さらに、大口顧客の獲得にも力を入れ、より高収益な事業への発展もめざす。その前提として、サービスの信頼性をより高めるために、会計・給与サービスについては、「米国保証業務基準書第16号(SSAE16)Type2」報告書を独立監査法人から取得し、ユーザーに無料で提供している。これは、データセンターの運用・管理を含むクラウドサービスの内部統制が適切に整備されていることを国際基準に基づいて継続的に評価するもので、ユーザーは内部統制監査に利用できる。J-SOX法により内部統制報告書の作成と内部統制報告書の外部監査が義務づけられている上場企業などは、監査のプロセスを大幅に削減できるほか、クラウドサービスの運用に関する信頼性を評価する根拠にもなる。
このほか大口顧客対応としては、従来、最大で24ユーザー8GBまでだったサーバー利用プランを、最大72ユーザー24GBまで拡張した。さらに、将来的には連結会計の機能やデータ分析などもラインアップする方針だ。
これらの取り組みが成果につながるかどうか。水谷社長は「あとはどれだけ認知してもらえるかにかかっている」と話す。ただし、最終的にはサービスの価値を認知させるだけでなく、ユーザー、パートナーの意識を根本的に変えることが必要。そのためにもう一歩踏み込んだ施策を打ち出せるかどうかが、成否のカギを握るといえそうだ。(本多和幸)