大手システムインテグレータ(SIer)の日本ユニシス(黒川茂社長)は、大日本印刷(DNP、北島義俊社長)との業務提携を本格的な売上拡大につなげるために、より密に連携する体制づくりに取り組んでいる。DNPが日本ユニシスの筆頭株主になり、両社が提携を発表して1年弱。共同展開による売り上げの実績がまだ低いと判断して、日本ユニシスのグループ会社であるUSOLグループとの組織連携を行った。日本ユニシスとDNPがユーザー企業のニーズを吸い上げて、システム構築が得意なUSOLグループが迅速に製品開発に反映する仕組みを構築する。11月に、ビッグデータ分析などができるマーケティング基盤を共同で投入し、これに乗せるサービスを商材に顧客開拓を急ぐ。(ゼンフ ミシャ)

DXNビジネス推進部長の田崎稔執行役員。今年3月まで日本ユニシス関西支社の支社長を務め、現在は、DNPとの共同ビジネスを成功に導くことをミッションとしている 「本腰を入れて共同ビジネスを飛躍的に伸ばさなければ、当社もDNPもダメになる」。今年4月に、日本ユニシスでDNPとの共同事業展開を手がけるDXNビジネス推進部のトップに就任した田崎稔執行役員は、両社の提携を実効性のあるものにしなければ発展はないと、強い危機感を抱いている。
両社は、11月に発売するマーケティング基盤を活用するビッグデータ分析や「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」などのサービスを展開することによって、2016年度(17年3月期)に両社で500億円の売上高を上げることを目指している。内訳は、サービスを提供するDNPが300億円、システム運用やセキュリティを担当する日本ユニシスが200億円を稼ぐというものだ。
しかし、DNPは2年連続で、印刷需要の落ち込みで売り上げが500億円以上下落している。従来のシステム構築事業が縮小している日本ユニシスも、新規ビジネスによる売上増が急務だ。そんな状況にあって、500億円の共同売り上げだけでは、両社とも本格的な業績回復につながらない。
共同展開のスロースタートも課題だ。両社は、2012年10月に共同の営業活動を開始してからの半年間、それぞれの既存商材を組み合わせた提案で、案件を獲得してきた。しかし、案件のボリュームが小さく、約6億円と、わずかな売り上げしか獲得していない。連携をより密にして、迅速な製品開発ができることを目的に、この5月に技術開発会社のUSOLグループとの組織連携を行った。これによって、日本ユニシスとDNPがヒアリングしたユーザー企業のニーズをUSOLグループが短時間で商品化し、売り上げの拡大を目指す。
16年度の500億円の目標を達成し、それ以降にさらなる勢いで売り上げを伸ばすために、マーケティング基盤とその上に乗せるサービスのユーザー企業数をどれほど増やすかがカギを握る。両社は、DNPのおよそ3万社の既存顧客に着眼して、コンテンツ関連の事業を展開し、IT化が遅れているとみる顧客に対して、マーケティングの改善や新製品開発ができるサービスを、導入しやすいクラウド型で提供していく。
田崎執行役員は16年度以降の目標について、「倍々で伸ばしたい」として、日本ユニシスの継続的な成長を図るために、DNPとの提携を事業の柱と捉えていることを表明している。
日本ユニシスは、グループ会社のリソースも、DNPとの提携に用いる。マーケティング基盤を構築中のDNPの千葉データセンター内に、保守事業を手がけるユニアデックスのオフィスを設け、ユニアデックスがマーケティング基盤の保守を行う。また、サービスの海外展開も計画しており、東南アジア諸国で拠点をもつネットマークスを活用して、現地市場の開拓を狙う。
両社は、今年度(14年3月期)の目標に、100億円を掲げている。達成できるかどうかは、マーケティング基盤発売の今年11月から来年3月にかけての数か月が勝負となる。「達成できなかったら、次の手を打つ」と田崎執行役員。強い決意をもって、DNPとの提携を成功に導こうとしている。
表層深層
異業種間の提携として注目されている大日本印刷(DNP)と日本ユニシスのアライアンスは、もともとDNPが考えたことだ。
DNPは2012年の夏、日本ユニシスの普通株式の一部を三井物産から買い取って、日本ユニシスの新しい筆頭株主になるとともに、業務提携を打ち出した。日本ユニシスのこれまでの筆頭株主は三井物産だった。DNP側の提携の狙いは、ITサービス事業を拡大するにあたって、システム運用を外部にアウトソーシングするのではなく、資本を入れてある程度コントロールすることができる会社に任せたい、というところにある。
一方、日本ユニシスは提携を受けて、「最初は警戒していた」(田崎稔執行役員)と打ち明ける。しかし、ここ数か月の間、DNPと共同のビジネス活動を進めるにつれて、「当社とDNPは文化や価値観が似ていることがわかって、安心した」という。日本ユニシスにとって、IT需要が旺盛で、3万社にも及ぶDNPの顧客ベースが、アライアンスの最大の魅力となる。
ここ数年の間、システム構築案件が減り、売り上げが落ち込んでいた日本ユニシスは、13年3月期、黒字転換に成功した。今回の業績に、DNPとの共同展開はまだほとんど影響していない。しかし、今年度からは、共同展開の拡大によって、業績へのインパクトも大きくなる。DNPとの提携の成否が、日本ユニシスの今後を決めるといっても過言ではない。(ゼンフ ミシャ)