調査会社のIDC Japanは、ユーザー企業がオープンソースシステム(OSS)を使用したシステムの支出額で形成される「OSSエコシステム市場」は、2017年に1兆円に到達すると弾く。けん引役はクラウドやソーシャルメディアだ。OSSを使いこなせるかどうかが企業・団体の競争力を左右する。1997年の創業以来、OSSの開発と利用を軸に事業展開するサイオステクノロジー(創業時の社名はテンアートニ)。社長の喜多伸夫は、自社のビジネスに時代の到来を実感している。(取材・文/谷畑良胤)
OSSエコシステム市場を押し上げる要素は二つ。クラウド基盤構築管理ソフトウェア「OpenStack」と「OpenFlow」のような仮想化やクラウドでのシステム基盤だ。
両基盤での使用が期待されているOSSが中心になり、エコシステムが拡大した。「Googleを代表格としたサービス企業の登場、Hadoop(大規模データを高速分散処理する基盤)やNoSQL(SQLインターフェースをもたない軽量データベース)などの普及によって、OSSがマジョリティ(多数派)になった」。昨年創業15周年を迎えたサイオステクノロジーの喜多は、OSSへの追い風を肌で感じている。
創業時の2000年前後は、Windowsベースのアプリケーションやブラウザの全盛期。OSSを提供するITベンダーは少数派だった。OSSのソフト製品を開発・販売・サポートするITベンダーの競合が少なく、寡占状態だったが、市場の規模は小さい。同社は、いつか訪れるOSS時代を予見していたかのように、緻密に体制を整えてきた。「ライセンスを売るモデルから、サービスを提供するモデルへとIT業界は変わる」。社長の喜多はそう信じて、OSSの普及に邁進していた。
サイオステクノロジーの売上高は、2012年12月期で約60億円。そのなかでウェブアプリケーションやソーシャル関係のサービス事業は1割程度を占める。依然としてエンタープライズ(企業や団体)向けの業務システムが主流だが、サービスモデルが築かれつつある。当面の目指すゴールは単純明快だ。SaaSのような同社サービスを月額従量課金で使うユーザー/IDを100万に伸ばすというもの。現状は数万ID程度だが、視界は良好だ。

昨年10月に開催した自社イベント「サイオスパートナーカンファレンス 2012」で、OSSの方向性について語ったサイオステクノロジーの喜多伸夫社長 佐賀県武雄市が自治体でFacebookを利用している事実は、ソーシャルに詳しい人なら誰でも知っている。同市の樋渡啓祐市長は、日本Twitter学会と日本Facebook学会を立ち上げた人物だ。「ソーシャル活動に意欲的な武雄市」という評価が定着している。
同市の地産品を売るEC(電子商取引)機能つきソーシャルコマース「FB良品TAKEO」は、サイオステクノロジーの子会社、SIIISの「SoBr」を実装している。「『SoBr』は、極めて簡単に、顧客とのコミュニケーションを通じてユーザーの生の声を自社コンテンツに吸い上げることができる」(喜多)。すでに集客で実績を上げている。類似する自治体の例は、10にも上る。
喜多は、よく海外に出向く。行き先は、ITの最先端技術が溢れる米国が多い。06年には、高可用性(HA)クラスタソフトで当時世界トップシェアだった米SteelEye Technologyを買収。クラスタソフト「LifeKeeper」の販売を世界で開始した。米子会社は、SteelEye Technologyの本社が置かれていた場所にある。
「この買収を経て、当社はグローバルなビジネス展開の足場を築いた」。同社ホームページの「社長メッセージ」に喜多はそう記している。喜多の頭の思考回路は、すべて「グローバル」が起点だ。米国で培った技術で開発したサービスを日本や中国を含めた世界で販売を拡大する。目標は、極めて高い「1000億円」というもの。100万IDが達成できれば、自ずと到達する数字ということだ。[敬称略]