【成都市のIT産業】ITベンダーからみた成都市
人材活用などに可能性が広がる
IT化に対して、成都市の政府や協会などが積極的に取り組んでいるという状況は、ITベンダーにとって、どのような利点を生むだろうか。成都市でビジネスを展開するITベンダーに、状況をたずねた。人材活用や先進サービスの提供、IT産業発展への貢献などの面でITベンダーが活躍しているようだ。
人材活用――兼松エレクトロニクス(成都)
「仮想現地法人」で日系企業を支援
10億円の売上規模を目指す

兼松エレクトロニクス(成都)
高橋薫総経理 日系企業が中国でビジネスを拡大するためには、優秀な人材を確保することが重要となる。優秀な人材を活用して日系企業の中国進出を支援しているのが、兼松エレクトロニクスの中国現地法人として2010年12月に業務を開始した兼松電子(成都)<兼松エレクトロニクス(成都)>だ。
同社は、天府ソフトウェアパーク内にオフィスを構えている。成都市に進出した理由について、高橋薫総経理は「優秀な人材が豊富な成都市に拠点を構えることが最適だと判断した」と振り返る。
同社はオフショア開発を主要事業として手がけているが、それに加えて、優秀な人材を生かしたビジネスとして、ユーザー企業があたかも兼松エレクトロニクス(成都)を現地中国法人のように活用できるサービスを「仮想現地法人」と称して事業拡大に力を注いでいる。高橋総経理は、「優秀な人材を配置し、ITインフラなどの設計環境などのビジネスフレームワークを当社が提供することによって、ユーザー企業は現地法人の設立に伴う投資やリスクを抑制できるだけでなく、不動産コスト・人件費・販管費などを経費化して迅速に中国へ進出することができる」とアピールする。
現在、兼松エレクトロニクス(成都)の売上規模は4億円弱だが、「仮想現地法人」の提供拡大によって「今後3年をめどに10億円規模まで引き上げる」と、高橋総経理は意気盛んだ。
先進サービスを提供――四川四凱計算機ソフトウェア/金蝶軟件(中国)四川省区
スマート交通システムの提供へ
クラウドサービス拡大の可能性
先進的にIT化を進める成都市にオフィスを構えることは、ITベンダーにとって最新技術を駆使したシステムやサービスの提供を拡大することにもつながる。
対日アウトソーシングを主要事業として手がける中日合弁会社として1989年に設立した四川四凱計算机軟件(四川計算機ソフトウェア)は、長年にわたって培った開発力を生かしてスマート交通システムを開発。今年末をめどにパッケージとして提供することを視野に入れている。このシステムは、モバイル端末やGIS(地理情報システム)など四川四凱計算機ソフトウェアが得意とする先進技術を駆使して実現したものだ。具体的なシステム構成は提供を開始するまでに詰めるが、羅昌栄総経理は「ある自治体が先行して導入している」と、すでに実績があることをアピールする。
中国市場で大手ERPベンダーの1社である金蝶国際(Kingdee)では、ユーザー企業の増加に向けて自社製品のクラウドサービス化を進めており、四川省エリアを管轄する金蝶軟件(中国)四川省区<Kingdeeソフトウェア(中国)四川省区>もサービスの提供を拡大しようとしている。項岁泉・四川省区総経理は、「まだパッケージでの提供がメインだが、クラウドサービスへのニーズは高い」とみる。現段階では各業界に対してサービスを導入することを積極的に提案し、大手企業には取引先を含めた利用などを勧めている。

(写真左から)四川四凱計算機ソフトウェア羅昌栄 総経理、
金蝶軟件(中国) 四川省区 項岁泉 四川省区総経理IT産業発展への貢献――成都市サービスアウトソーシングプラットフォーム
政府、協会、大学、企業をつなぐ
日本と成都市を結ぶ橋渡しも

成都市サービス
アウトソーシング
プラットフォーム
陳鋳 総経理 政府が打ち出した施策を生かして企業がいかに成長できるかが、その街の産業発展につながるカギとなる。成都市では、成都市サービスアウトソーシングプラットフォームが、成都市の政府と協会、企業などを結んで、成都市のサービスアウトソーシング産業をさらに発展させる役割を果たしている。
成都市サービスアウトソーシングプラットフォームは、コンサルティングサービスや対日の総合ビジネスプラットフォーム事業などを主要事業として、成都市の政府と協会、ITベンダーをつないでおり、日本のITベンダーと成都市など中国のITベンダーとのパートナーシップ深耕なども手がけている。陳鋳総経理は、「政府の施策を通じて、成都市のIT産業発展に向けて設立した会社」と表現する。陳氏は、成都市ソフトウェア協会の副事務局長も務めており、「例えば成都市サービスアウトソーシングプラットフォームが請け負った場合、単に下請けの1社としてではなく、成都市全体が活性化するためのプロジェクトを任されていることになる」と説明する。
日本と中国のITベンダーをつなぐ取り組みについては、日本の有力なソフトウェアメーカーが集結しているMIJS(メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア)コンソーシアム加盟企業が提供する製品が、中国最大の通信事業者であるチャイナテレコムのSaaSサービスとして採用された実績がある。まだ、大きな動きはないものの、「2013年は、中国でSaaSが徐々に広がって、今後、大きなビジネスへと発展していく」と、陳総経理は捉えている。
【成都市IT産業発展の立役者】成都ウィナーソフト
「サービスアウトソーシング総合商社」として確立
5年後に売上高100億円を目指す

周密
総裁兼CEO 成都市のIT産業が発展している背景には、成都市を本拠地とする成都維納軟件(成都ウィナーソフト)の存在が大きい。日中間の架け橋になることを標榜して日系ITベンダーの製品を中国に展開することを主眼にビジネスを拡大するとともに、政府やITベンダーをつなぐ成都サービスアウトソーシングプラットフォームの運営も手がけている。今まさに「サービスアウトソーシング総合商社」として確立した同社は、今後どのような方向に進むのだろうか。
成都ウィナーソフトは、2007年2月の設立以来、成都市のIT業界で盛んな「オフショア開発」にとどまらず、日本を中心とした海外IT製品を中国のユーザー企業向けにソリューション販売したり、IT人材トレーニングなどをコアに成都市を中心とした中国ITベンダーの成長を見据えた取り組みを進めたりするなど、事業領域を広げてきた。成都ウィナーソフトの成長とともに成都市のIT化が盛んになったという点でも、市を世界で有数のIT都市まで成長させたことに大きく寄与したことは間違いない。
その成都ウィナーソフトは、今、国内外のITベンダーや製品、政府や大学などをつなげる「サービスアウトソーシング総合商社」へと変貌している。周密総裁兼CEOは、「設立から5年以上が経過して、成長軌道に乗った」と説明する。オフショア開発を中心としたITサービス、コンサルティングを含めた企業への事業支援サービス、優秀な人材を社会に輩出するための教育関連サービスとビジネスモデルを精査。ユーザー企業に対してビジネスモデルの設計から運用までを手がけている。

黄雷
副総裁兼COO また、ユーザー企業の案件獲得を支援するという観点では、例えば政府や大手企業などと商談する場の少ない中小企業に対して、成都ウィナーソフトが日本ITベンダーとの交流を含めて橋渡しに取り組んでいる。副総裁兼COOでCASS副理事長も務める黄雷氏は、「政府の政策などの情報を協会の会員企業と共有することも重要」と、成都ウィナーソフトが協会も巻き込んでIT産業の活性化に寄与していることをアピールする。
今後の方向性について、周総裁兼CEOは「今年度(2013年12月期)に20億円の売上規模を見込んでいる。来年度には米シリコンバレーに拠点を開設するほか、今後はASEANへの進出など、海外のさまざまな地域でビジネスを展開することを視野に入れている。今後5年をめどに、M&A(企業の合併や買収)を含めて100億円の売上規模に引き上げる」としている。
また、成都市のIT市場については、「成都市のIT市場は基盤が固まって、今後5年間は収穫期に入るだろう」と分析している。
発展し続けている成都市でビジネスを手がけようと考える日系企業に対して、「具体的なビジネスプランをもって本気で進出したいのであれば、一緒に事業を手がけていきたい」との考えも示している。
成都ウィナーソフトの支援によって中国進出を果たした日系企業
成都生涯科技(ユーキャンチャイナ)
中国に通信教育を根づかせる

ユーキャンチャイナ
坂西健治
董事長 成都ウィナーソフトの支援によって中国進出を果たした日系企業がある。通信教育大手のユーキャンだ。今年1月11日、成都ウィナーソフトグループとともに成都市の天府ソフトウェアパークで合弁会社の成都生涯科技(ユーキャンチャイナ)を設立し、4月8日に本格的にサービスを開始した。
坂西健治董事長は、「中国では、社会人向けの職業訓練に対するニーズが高いが、誰もが気軽に訓練を受けることのできる環境がまだ十分に整備されていない」と語る。職業訓練という視点から、中国で通信教育を根づかせることが進出の狙いだ。
まず4月に開始した通信教育講座は、社会人としてIT時代に必要な基礎知識に関連するもの。7月には応用技術やプロジェクトマネージャーになるための講座も開き、今後はシステムアーキーテクト関連の講座を開く予定だ。
受講者の増加策については、専用のネットサイトを開設して申し込みを受け付けるほか、新聞の折込チラシやテレビCMなどを活用。「大学にも売り込んでいく」という。
中国拠点として成都市を選んだ理由は、「天府ソフトウェアパークをはじめとして、IT人材が豊富。ブリッジSEなど、その人材のスキルをさらに高めることが事業拡大につながる」と判断したことにある。中国での成功を足がかりに、今後はアメリカやブラジル、ロシア、ドイツなど、他の国にも進出することを計画している。