クラウド型の会計事務所専用システムを提供しているアカウンティング・サース・ジャパン(A-SaaS、森崎利直社長)は、セールスフォース・ドットコムと資本・業務提携した。この提携は同社にとって、事業の継続性を維持するための資金確保策であるだけでなく、一般企業向けの財務会計ソフト分野に進出するベースになる可能性もあるので、事業戦略上の意義は大きい。クラウドサービスが十分に浸透しているとはいい難い基幹業務系のソフトウェア市場を、会計事務所専用システムで培ったノウハウを生かして切り崩す。

森崎利直 社長 全国には約3万2500の会計事務所があり、専用システムは、TKC、日本デジタル研究所(JDL)、ミロク情報サービス(MJS)の上位3社で約8割のシェアを占める寡占状態だ。
そんななか、昨年6月に財務・税務の主要機能が完成したA-SaaSのクラウド型会計事務所向けシステム「A-SaaS」は、すでに580か所の会計事務所で実稼働している。会計事務所向けシステムとしては初のクラウドサービスであり、ビジネスモデルもユニークだ。他社の従来製品との最大の違いは、ユーザーの顧問先企業が会計・給与システムを無償で利用できる点にある。顧問先企業は、コストをかけずに会計・給与システムを手に入れることができるだけでなく、「A-SaaS」上で、自社の財務情報を会計事務所と共有できる。A-SaaSの会計・給与システムを利用しているユーザー(会計事務所)の顧問先企業は、早くも1万社に達している。
こうして会計事務所向けシステム市場に新風を吹き込んだA-SaaSだが、今年6月、セールスフォース・ドットコム(SFDC)との資本・業務提携を発表し、次の一手を打った。最終段階にある「A-SaaS」の機能開発などに必要な資金を確保するとともに、サービスの拠点をSFDCの東京データセンターに移し、「A-SaaS」の基盤も、SFDCのクラウドプラットフォーム「Force.com」に移管する。「クラウドの最先端を行くSFDCのDCや基盤を使うことで、ユーザーに揺るぎない信頼性、セキュリティ、パフォーマンスを提供できる」と、A-SaaSの森崎社長はそのメリットを説明する。
ただし、同社にとってSFDCとの提携の意義は、「A-SaaS」のクオリティ向上や事業の持続性確保だけにとどまらない。実は、新たな事業展開のトリガーという側面が非常に大きく、これを機に、一般企業向けの業務システム市場にも打って出る方針だ。来年度には一般企業向けシステムのベータ版を発表する予定だという。
森崎社長は、「『A-SaaS』は一般企業でも十二分に通用するレベルにある。SFDCのマーケットプレースである『AppExchange』でも会計ソフトはキラーコンテンツだが、中小・零細企業に対応する有効なソフトがなかった。『A-SaaS』はまさにそうしたニーズを満たすポテンシャルをもっており、SFDCのCRM(顧客管理)と対になる」と話し、「A-SaaS」のような零細企業まで対応する財務会計システムは、SFDCにとっても欠けた部分であり、両者が補完関係になり得ると強調する。
一方で気になるのは、「A-SaaS」ユーザーの会計事務所と顧問契約を結べば無償で会計・給与システムを使うことができるという現状のビジネスモデルが動いている状況にあって、一般企業に有償でのシステム提供をどう訴求していくのかという問題だ。これについては、「会計事務所の顧問先は年商1億円以下の企業が8割以上。一般企業向けシステムは、もう少し上のレンジの企業で幅広く使ってもらえるものに仕上げて、SFDCのCRMと連携したソリューション提供なども模索したい。さらに、新規に開拓した一般企業を『A-SaaS』ユーザーの会計事務所と結びつけることができれば、両者にメリットが生まれる」(森崎社長)と説明する。
中堅・中小企業向けのクラウド型業務ソフトとしては、ピー・シー・エーなどが先行するが、コスト面で十分優位に立つと考える。今年度前期は1億3000万円の売上高だったが、2017年度には通年で売上を30億円にまで伸ばす意向だ。(本多和幸)