中堅規模のICT(情報通信技術)インテグレータが、機械同士が情報を交換し合う「M2M(マシン・トゥ・マシン)」のプラットフォームやアプリケーションを、道路や橋を管理するためのツールとして、地方自治体に売り込もうとしている。三井情報(齋藤正記社長)は、街路灯を制御し、省エネ化につながる自治体向けM2Mサービスを今年度内に発売する。日本システムウエア(NSW、多田尚二社長)は、建設コンサルティングを手がける企業と組んで橋梁の劣化を予測し、保守計画を策定する実証実験を行っており、早期の事業化に向けて取り組んでいる。両社は、節電対策やインフラの老朽化に頭を痛めている地方自治体に対して、クラウドのメリットを打ち出して低価格を武器にしてM2Mを提案していく。(ゼンフ ミシャ)
分野を想定して開発コストを抑える
三井情報が開発している街路灯制御サービスは、街路灯にセンサを設置し、人が歩いていたり、クルマが走ったりしているかどうか、道路の状況を把握する。ネットワークを介して、それらのデータを三井情報が運用するM2Mプラットフォーム上で管理し、遠隔から街路灯の明るさを自動調整できるようにする。こうして、必要なときだけ街を照らし、人がいないときは明るさを落として、エネルギー使用の削減につなげる。年度内にも発売し、地方自治体に提案していく。

三井情報
渡辺卓弥 本部長 三井情報(2013年3月期売上高=483億円)は、今年7月にクラウド型のM2Mプラットフォームを投入した。データを収集・保存するツールにアプリケーション開発用のインターフェースを組み合わせて、短時間・低コストでM2Mソリューションを開発できる仕組みをつくった。同社のデータセンター(DC)で運用中だ。三井情報は、プラットフォームをM2Mサービス用の基盤として、PaaS型でサービス事業者に提供するほか、自社でSaaS型のアプリケーションを開発してプラットフォームに載せる。セットで売り込むことによって、収益の向上を図る。
調査会社の富士キメラ総研は、国内のM2Mソリューション市場はアプリケーションの需要にけん引され、12年度の1203億円から、17年度までに2762億円に拡大すると予測している。今のところ、NECや富士通、NTTデータを中心とする大手ICTインテグレータが先駆けてM2M市場の開拓に取り組んでいるが、ここにきて三井情報などの中堅インテグレータも動き出している。
中堅インテグレータは、クラウドによる低価格を前面に打ち出し、さらに小規模の案件であっても対応することを提案の訴求ポイントとしている。予算が限られていて大手インテグレータのM2Mソリューションに手が届かない地方自治体が導入しようとする際のハードルを下げて、M2M案件を獲得しようとしている。
三井情報でM2M事業を率いるIT基盤サービス事業本部の渡辺卓弥本部長は、「M2Mプラットフォームを構築する過程で、応用分野と規模感をある程度想定し、開発コストを極力抑えた」と、中堅ベンダーならではの工夫を語る。開発実績がある省エネ・制御系に絞り、地方自治体を重点ターゲットにしている。今後、同社の地方拠点や構築パートナーの販売網を使い、提案活動に本腰を入れる。これによって、DC事業を含むM2M関連ビジネスを現在の約40億円から、3年後には100億円に引き上げることを目標としている。
非IT系と提携して価値を打ち出す
まだ黎明期にある中堅インテグレータのM2Mビジネスだが、本格的な拡大に導くために、アプリケーションの品数を揃えて、エンドユーザーにデータ分析・活用のメリットを明確に伝えることが欠かせない。そこで、M2Mの提案をICTだけの領域にとどめず、エンドユーザーの業界の知識も取り入れたソリューションが注目される。

NSW
竹村大助 部長 NSW(13年3月期の売上高=260億円)は、建設コンサルティングを手がける事業者とパートナーシップを結び、小規模橋梁を管理するソリューションの商品化に動いている。地方に数多くある「ミドルサイズ以下の小さい橋」(ITソリューション事業本部 クラウドサービス部の竹村大助部長)を対象にし、センサによって、橋のひずみや振動などのデータを収集し、同社のM2Mプラットフォーム上で分析する。そして、建設コンサルティング会社の力を借りて、データをもとに橋に異常がないかを監視したり、経年劣化を予測したりして、保守計画を策定したうえで自治体に提供する。ICTと建設のノウハウを組み合わせることによって、M2Mの実用性を高め、橋梁の管理改善を急務としている地方自治体に、M2M活用の価値を訴求するわけだ。
橋梁向けのM2Mソリューションは、NTTデータが提供する「BRIMOS」が先駆けで、2012年に開通した東京ゲートブリッジなどが採用している。しかし、「BRIMOS」はあくまでも大規模の橋を対象としたもので、小規模橋梁には向いていない。そこで、NSWは、小規模橋梁用のM2Mソリューション市場をブルーオーシャンと捉え、「パイオニアとして開拓したい」(竹村部長)と意気込んでいる。現在、ある県で実証実験を行っており、10月下旬に結果をまとめて、事業化に取り組んでいく。
NSWは、建設コンサルティング会社以外にも、非IT系パートナーとの提携を推進している。冷凍コンテナのメーカーやFA(ファクトリーオートメーション)のメーカーと組んで、食品輸送やFAの分野でも、M2Mソリューションの展開に乗り出す。「2014年に、50社への導入、5億円の売り上げを目指し、将来、M2Mをビジネスの柱にしていきたい」(竹村部長)と構想している。
表層深層
M2Mソリューションは、デバイス(センサやゲートウェイ)、ネットワーク、プラットフォーム、アプリケーションと、各レイヤーで構成される。しかし、M2Mビジネスに乗り出そうと考えているITベンダーは、必ずしもすべてのレイヤーを自社で網羅する必要はない。例えばNSWは、通信キャリアなどと協力して、ネットワークの部分を、他社の力を借りて提供している。
多くのITベンダーにとって商機をつかみやすいと考えられるのは、アプリケーションのレイヤーだ。地方に密着し、地元の自治体や企業の悩みをよく知っているアプリケーション開発事業者は、三井情報やNSWが運用するプラットフォームを活用すれば、大きな先行投資を行うことなく、M2Mビジネスを展開することが可能となる。
首都圏では、2020年の東京五輪の開催決定が、道路や橋梁など、インフラ改善プロジェクトの追い風となって、M2Mの需要が旺盛になりそうだ(10~13面に関連記事)。ユーザーが求めるのは、クラウドを活用して「導入しやすい」「使いやすい」を実現した、実用性の高いM2Mソリューションだ。これらを具体的なかたちにするのは、まさに中堅インテグレータの腕の見せどころだ。(ゼンフ ミシャ)