琉球銀行(金城棟啓頭取)は、今年7月、名刺と商業印刷の内製化を開始した。主導したのは、情報システム部門ではなく、営業企画部門のトップとその右腕の二人。彼らにとっては、6年越しの悲願ともいうべき案件だ。デザイナーも増強し、社内に「デザインセンター」ともいうべきクリエイティブな環境をつくりあげて、営業業務を迅速・強力にサポートする。コスト削減効果は大きいが、それにとどまらず、ITを活用して、銀行という業態に新たな風を吹き込むポテンシャルをもつ取り組みだ。
【今回の事例内容】
<導入企業> 琉球銀行総合企画部時代、ディスクロージャー誌の内製化やウェブサイトの構築を推進。印刷物の内製化も検討を始める。その後、コザ支店長を経て、現職でそのミッションに再び取り組んだ
<決断した人> 琉球銀行 川上康・執行役員営業統括部長 <課題>営業活動用印刷物の不良在庫を大量に抱えていた
<対策>高機能オンデマンド印刷機とオーダー印刷エントリーシステムを導入するとともに、デザイナーも雇い入れ、名刺や営業用印刷物(チラシなど)を内製化
<効果>名刺の内製化だけで年間1500万円近くのコスト削減効果。チラシの納期は従来の3分の1に
<今回の事例から学ぶポイント>業務部門からの積極的な提案がITの導入効果を高める
チラシの不良在庫が大量発生
銀行は、多種多様な金融商品を扱うこともあって、大量の印刷物を作成する。従来、琉球銀行は、他の多くの銀行と同様、これらをすべて外注でつくってきた。しかし、そこには大きな課題があった。現在、同行の営業企画部門を統括する執行役員営業統括部長の川上康氏は、「営業用の印刷物で一番やっかいなのは、マイナーチェンジが非常に多いこと。例えば、キャンペーンの期間を変更したり、他行の動向をみて金利を少し下げたりなど、細かな変更が頻繁に起こり得る。そうすると、以前に刷ったチラシはすべて使えなくなり、不良在庫が大量に発生してしまう」と指摘する。
川上氏は、総合企画部に所属していた6年ほど前、直属の部下だった伊禮真氏(現・営業統括部リテール業務課広告・WEB担当上席調査役)とともに、その対策を検討し始めた。そして、必要なものを必要な時に必要な数だけ印刷するオンデマンド印刷システムを採用して内製化する方針を固め、実機の導入寸前までこぎ着けた。しかし、その直前に、二人とも異動で総合企画部を離れてしまう。推進役を失ったプロジェクトは宙に浮いてしまった。
事態が動いたのは、昨年だ。川上氏が現職に就き、今度は統括する営業企画部門の取り組みとして、販促ツールなどの商業印刷の内製化に再チャレンジする方針を固めた。そして、そのための実働部隊の責任者として、外部に出向していた伊禮氏を呼び戻した。

琉球銀行のクリエイティブ作業の拠点「DIGITAL UNDER GROUND」名刺だけで1500万円のコスト減
川上氏の構想は、単純に印刷室を社内につくるというものではなかった。ポイントは、デザイナーを自行で抱えて、デザインから印刷まで、商業印刷をワンストップで制作できる環境を整備することだ。その背景には、印刷物の不良在庫を圧縮するという目的に加え、より強力に営業活動を支援できるツールとして、商業印刷のクオリティを高め、営業の現場の要望にも柔軟に対応しようという意図があった。
このプロジェクトは今年2月に決裁され、現在、担当部署であるリテール業務課には、2人の専属デザイナーが所属している。そして、この構想の核となる印刷システムには、富士ゼロックスのオンデマンド・パブリッシング・システム「Color 1000 Press PX1000 Print Server」を採用。プリントスピードの圧倒的な速さとコストパフォーマンスを高く評価した。このシステムを本店の地下に設置し、格納している部屋を「DIGITAL UNDER GROUND」と名づけて、内装、外装ともデザインにこだわった。「ここからクリエイティブな作品を送り出すという思いを込めたかった」(伊禮氏)からだ。
さらに、行員各自がオンラインで印刷物をリテール業務課に発注する「オーダー印刷エントリーシステム」も同時に導入した。福岡県のITベンダーと同行が共同で開発したものだ。一連の動きは、リテール業務課が主導した。
「現場のニーズに合わせたシステムをスピーディに整備したかった」(伊禮氏)といい、まずはこのシステムを活用して、9月から「DIGITAL UNDER GROUND」で全行員の名刺を制作している。社内の人事システムと連携しているため、入力情報のミスがなく、納期も大幅に短縮できた。さらに、川上氏は、「名刺の内製化だけで年間1500万円近くのコスト削減効果がある」と、メリットを強調する。チラシ類の発注は、現在、個別の要望ごとに対応しているが、納期を従来の約3分の1に短縮できる見込みで、近くシステム経由の発注受付も開始するという。
行内で、こうした動きに反対する声はほとんどなかったという。いまでは、いろいろな部署から「こんなことを“地下”でやれないか」という提案・要望も寄せられている。(本多和幸)

印刷内製化システムの核となる富士ゼロックスのオンデマンド印刷機「Color 1000 Press PX1000 Print Server」