ジョルダンは、ウェブでのダウンロードやパッケージソフトで「乗り換え案内」サービスを提供するITサービス企業であるとともに、出版事業者としての顔ももっている。3月に創刊した季刊の料理マガジン『キレイ食』では、スマートフォンと連動した新しいスタイルのメディアを提示した。インターフェースとなる専用アプリには、富士ゼロックスが2月に開始したクラウドサービス「SkyDesk Media Switch」を採用。類似画像検索技術を活用して、紙媒体とITを融合させた。

【課題と決断】IT企業ならではの雑誌をつくりたい！

　「乗り換え案内」サービスのパイオニアであるジョルダンが、近年、出版事業の大きな課題として検討してきたのが、「電子と紙の融合」だ。太田直之・メディア事業部長は、「当社は『乗り換え案内』で一般に認知してもらっているIT企業にもかかわらず、出版事業のコンテンツとITをつなぐ仕掛けをまったく用意していなかった」と、忸怩たる思いを抱えていたことを吐露する。

　昨年初頭、「食と健康」をテーマにした新しい雑誌を創刊することが決まり、「紙を導入口にして、ウェブに誘導する」という視点で、AR（拡張現実感）を活用した新しいメディアのスタイルを模索することになった。最終的に構想したのは、スマートフォンのアプリで雑誌の紙面を撮影して送信すると、関連づけられた情報が配信されるサービスだ。

　ARのコアとなる画像認識関連技術・サービスは注意深くウォッチしていたが、「既存の技術・サービスでは、求める機能とコストの両方をクリアできなかった」（太田事業部長）という。しかし昨年末、富士ゼロックスのホームページで、まだ開発技術情報の段階だった「SkyDesk Media Switch」をたまたま発見したことが大きな転機となった。太田事業部長は、「まさに探していた技術だと思い、すぐに富士ゼロックスに連絡した。詳細を聞くと、企業向けサービスとしては料金も安く、求めるコンセプトに完全に合致したサービスだった」と振り返る。

【効果】O2Oのビジネスモデル構築へ

　「SkyDesk Media Switch」は、富士ゼロックスの米国関連会社が開発した類似画像検索技術を採用したスマートフォン向けクラウドサービスである。ユーザー企業は、PDFなどの形式で印刷物の画像データをPCに取り込み、クラウド上でリンク情報などを設定する。設定後に印刷物を配布し、受け取った人がスマートフォンで画像を撮影、送信すると、リンク情報が配信される仕組みだ。

　ジョルダンは、2月のサービスインを待って正式に採用を決定。3月2日の創刊に向けて、このサービスを組み込んだ『キレイ食』アプリの開発を急ピッチで進めた。

　創刊号では、食育レシピを約30食分掲載しているが、これは主菜のみで、アプリを起動させてスマートフォンをその料理写真にかざすと、副菜のレシピが配信される。アプリは単体でも利用することができるが、その場合は20種類ほどのレシピしか閲覧できず、さらに多くの情報を得るためには雑誌を買う必要がある。

　横田直子・事業推進室サブマネージャは「できあがった誌面をPDFで登録すればいいだけなので、制作フローにほとんど影響を及ぼさない」と「SkyDesk Media Switch」のメリットを評価する。

　また、「アンドロイドOSのスマートフォンは、他社サービスでは画像を読み込めないケースもあった」（横田サブマネージャ）というが、「SkyDesk Media Switch」はアンドロイドOS上でも安定して動作している。

　一方で、サービスを提供した富士ゼロックスの渡辺美樹・事業開発センターメディア事業プロジェクトサブリーダーは、「料理の写真は似たような画像が多いので、誤検索が発生する可能性は0％とはいえなかったが、問題は起きていないので安心している」と手応えを感じている様子だ。

　太田事業部長は今回の取り組みについて、「雑誌がアプリ活用の動線になるとともに、無料のアプリを導入口として、雑誌でさらに多くの情報を得ようというユーザーの流れもつくっており、O2O（Online to Offline＝実店舗での購入につなげるためのネット上の販売促進活動）のビジネスモデルがみえてきている」と展望を語る。紙とITをつなぐ新たなビジネスモデルの確立を目指す考えだ。（本多和幸）