新規事業の創出を目指すミドリ安全(松村不二夫社長)は、今年4月、同社初のICT製品を発売した。カメラや通信を活用し、作業現場で撮った映像をリアルタイムに本部に送信する「Weyes(ダブルアイズ)」だ。これを商材に、新規市場の開拓に取り組む。安全グッズなどを取り扱うミドリ安全はICTベンダーではなく、「Weyes」の開発は大きな挑戦だった。通信の部分は、ICTを専門とする京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のツールを導入して実現している。
【今回の事例内容】
<導入企業> ミドリ安全安全靴やヘルメットなどの安全衛生保護具をはじめ、オフィス/ワーキングユニフォーム、空気清浄機などの製造と販売を手がけている。設立は1952年。従業員数は、販売会社を含め、約1420人。
<決断した人> 技術開発部 野沢真部長ミドリ安全の研究開発部隊で開発グループ設計チームを率いる。チームメンバーにチャレンジ精神を根づかせ、開発上のあらゆるハードルを越えて、今年4月に「Weyes」を発売した
<課題>空気清浄機の需要の縮小などを受けて、ビジネスの維持・拡大のために、新規事業の開拓に取り組まなければならない
<対策>ICT(情報通信技術)を活用した、自社開発の画像送信システム「Weyes」を投入。既存製品と組み合わせて提案し、ビジネスの活性化を図る
<効果>ICTを取り入れて、ユーザーのニーズにより広範囲で対応するポートフォリオを揃え、将来の成長基盤を築いている
<今回の事例から学ぶポイント>自社がICTベンダーでなくても、専門事業者の力を借りれば、時代のニーズに適した独自ICT製品を実現することができる
空気清浄機の需要減少に対応
製品名の「ダブルアイズ」は、作業者と管理者の二人の目線で作業のチェックを行うという意味でつけたそうだ。作業者がかぶるヘルメットにカメラを備え付けて、工場など作業現場の状況を撮影する仕組み。映像情報を処理する小型サーバーを搭載したコントロールユニットと組み合わせ、ネットワークを通じて映像をリアルタイムに管理者のパソコンに送信する。管理者は、作業者が見ている状況を自分の目で把握し、作業方法やトラブル対処について、遠隔から指示を出すことができる。
このシステムを開発したのは、ICT専門のベンダーではない。安全靴やヘルメット、ユニフォーム、空気清浄機など「安全・きれい」をキーワードに掲げる製品の製造と販売を手がける老舗企業のミドリ安全だ。
「Weyes」の開発に踏み切ったきっかけは、室内禁煙の普及である。同社は、ルールが厳しくなり、室内の喫煙禁止があたりまえになったことによって、主力製品の一つである空気清浄機の需要が年々に減ってきたことに悩んでいた。従来の製品ポートフォリオだけでは、ビジネスを維持・拡大することが難しい──。同社はそう捉えて、新しい市場を開拓するために思い切って「Weyes」の開発を決めた。

開発グループ設計チームの野沢真部長(左)と、営業部の縄野翔氏通信部分はKCCSと共に実現
独自性を重視し、「Weyes」の中核となるソフトウェアについては自社開発にこだわった。環境機器事業本部 技術開発部 開発グループ設計チームの野沢真部長は、「当社は、プログラミングに長けている人材がほとんどいなかったので、ソフトウェア開発には一番苦労した」と振り返る。野沢部長は、会社の将来の成長基盤を築くために、「Weyes」の実現が絶対に欠かせないと開発メンバーに訴え、プログラミングのスキルを磨くように促した。
しかし、どうしても自社でできない部分があった。カメラ画像をパソコンに送る際に必要な「通信」だ。そこで、通信のプロの力を借りることで通信部分をクリアすることを決断した。
採用したのは、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が提供するモバイル通信サービス「KWINS 3G Plus」だ。決め手になったのは、データ通信にWiMAXと3Gの両方の規格を使うことができる点にあった。「『Weyes』の主なお客様となる工場は地方に多く、WiMAXのサービスが利用できない地域がある」(野沢部長)と判断し、「3Gも合わせて使用できることが、導入を決定するうえでのポイントになった」という。「KWINS 3G Plus」を導入し、今年4月に「Weyes」の発売にこぎ着けた。
既存製品とのセット販売も
現在は、ユーザー企業の獲得を目指し、現場での提案活動を進めている。第一線で活躍しているセフティ&ヘルス統括部 営業部の縄野翔氏は、「お客様には、おもしろがってもらえるけれども、日常の業務で実際にどのように使えば効果が出るかが伝え切れていないので、提案をブラッシュアップして、具体的な活用シーンを提示することに力を注いでいきたい」という。地震などの災害時に町内の被害状況をいち早く本部に連絡するために、官公庁の危機管理担当者に提案するなど、ターゲットを広げている。
もう一つ、力を入れるのは、既存製品とのセット販売だ。例えば、「Weyes」を使うときに作業者が身につけるコントロールユニットと通信用ルータがぴったり入る専用ベストを一緒に提案し、安全グッズメーカーとしてのノウハウを生かしてビジネスの活性化につなげる。
「当社のお客様はこれまで、現場作業の風景を録画して本部に持ち帰り、画像を共有していた。今後は、ICTを取り入れた『Weyes』をお客様に提案し、業務を全面的にサポートすることによって、パイプを太くしたい」と野沢部長は次の段階の戦略を語る。(ゼンフ ミシャ)