中国市場向けビジネスは、尖閣問題が多少落ち着いてきたと思っていた矢先に、今度は中国による防空識別圏の設置という新たな問題が浮上するなど、日本企業にとってヤキモキする状況が今も続いている。これまで5回にわたって中国ビジネスを取り上げてきたが、今回は多少趣を変えて、まだ触れていなかった中国のネットビジネスの現状や、中国政府の言動の裏にある本音とどうつき合うかなど、今後に向けた提言も含めて、内山雄輝社長に語ってもらった。(構成/本紙編集委員 谷畑良胤)
中国のネット市場は巨大で成長が続く
海外の市場開拓には、実際に現地に法人を設立して乗り込んでいく「地上戦」と日本にいながら現地のマーケットを狙う「空中戦」の2種類がある。「空中戦」の代表がネットビジネスだが、中国のネットビジネスの現状はどうだろうか。
中国では11月11日を「光棍節」と呼び、独身者を盛大にお祝いする習慣がある。Eコマースサイトの「淘宝(タオバオ)」は、2012年、光棍節の1日のセールだけで、伊勢丹新宿店の1年分を上回る2400億円以上を売り上げた。さらに今年の光棍節は、アリババ傘下の淘宝と天猫(Tモール)の合計の売上高が350億1850万元(約5700億円)にも上った。この二つのEコマースサイトの合計取扱高は年間で1兆人民元(15兆9000億円)を超え、扱う小包の量は中国全体の半分以上を占めるというほどだ。
このように、Eコマースが伸長する背景には、物流の整備も大きい。以前は、ネットで購入した商品が届かないことも珍しくなかったが、今ではほぼ確実に届くようになった。
これまで中国のネットビジネスはC2Cが中心だった。しかし、出展企業の認定などもしっかり行われるようになりB2Cも最近、大きく拡大し、今後も大きな成長が期待できる。この膨大な市場に日本企業が入っていくには、何よりも中国のやり方に従い、中国人が求めるものを見極めることが重要になる。
中国では、カネで何とかなるという事柄が多いのが実際のところだ。日本では企業のコンプライアンスが重視されて、法律やルールを厳格に守るという考えが浸透している。「郷に入っては郷に従え」というが、欧米企業は中国式でやってうまくいっている面がある。現地の慣習に合わせて、日本企業も、もう少しうまく立ち回れるように柔軟な姿勢でビジネスを進める必要がある。
日中の関係改善は今がラストチャンス
今や、ジャパンブランドは、品質、技術を磨いた中国などの海外勢に押され、「Made in Japan」というだけでは市場に通用しなくなっている。しかし、中国が日本に頼らざるを得ない分野があるのも事実で、中国ではできないことが日本にできる。例えば、スマートシティ、環境対策、インフラ整備などだ。鉄道の技術も自動車のハイブリッド技術も喉から手が出るほど欲しいと思っている。
とくに、ゼロから構想してつくり上げていくことは苦手で、身近な例をとれば、中国の人はパワーポイントの企画書づくりが得意でない。しかし、すでにあるものをカスタマイズする、または与えられた仕事をこなすのはお手の物。だから、基本設計などは日本に任せるが、その先は自分たちでもできるので、いつかはマネされると考えてビジネスを進めなければならない。しかし、マネされるからやらないというのでは何も生み出さないので、ナンセンスだ。いつかは必ずマネされる。それなら今から手を組める方法を考える。こんな攻めの姿勢がグローバルでは必要だ。
繰り返し述べているが、中国は共和国であって一つではない。言葉も考え方も地域で異なる。また、国は共産党のもので、政府は共産党の下にあり、軍も共産党のものだ。要は、日本や日本人と全然違う。中国ビジネスはそんな未知の人を相手にするのだということを常に意識しておくべきだ。
反日感情にしても、世代で大きく違う。80年代より前に生まれた人々の対日感情はよくないが、「80後」と呼ばれる80年代生まれの若者になると、もともと日本に対する心証は悪くはない。しかし祖父母らから日本に対するネガティブな見方を聞かされるうちに、「日本人とはつき合えない」と考える人が多くなる。これが「90後」と呼ばれる90年代生まれになると、反日感情などあまり関係がない。
プロパガンダとしてのポーズはあるが、世代交代した現在の中国政府の上層部は、実のところ反日の意識はほとんどない。共産党幹部はこう考えていると聞いた。「例えば、安倍総理がもう少し歩み寄って、東南アジア訪問の帰りにでも、ぜひ中国に立ち寄りたいなどと言ってくれれば、関係は大きく改善する」とのことだ。そして同時に懸念していたのは、関係改善には今がラストチャンスだということ。遅くなればなるほど中国の技術力も進歩するので、日本の技術を必要としなくなるというのだ。
私は、日本政府はプライドよりも中国から実利を取ることに、もっとしたたかになるべきだと思っている。だが、日本のマスコミは悪いイメージばかりを伝えていて、足枷の一つになっていると感じる。また、米国との関係もあるだろう。そうしたなかで民間にできることは限られるが、私としては、教育からの日中友好を提案したい。もし、日本人の10人に1人が中国語を学べば、中国を理解できるから意識も大きく変わる。今や日本もグローバル化が進み、若い人を中心にかなりオープンマインドになっている。企業でも、トヨタが、日本中心の体制から段階的に現地主導の開発体制に移行するなど現地化が進んでいる。
現地を知り、現地の考えを理解できる国内人材が増えることで、両国の相互理解がより深まり、本当の意味での関係改善が進むことを心から望んでやまない。
【Profile】WEIC 内山雄輝社長
1981年、愛知県名古屋市生まれ、32歳。2004年3月、早稲田大学第一文学部中国語・中国文学専修卒業後、WEICを設立。人間が言葉を覚える過程の言語学理論をシステム化し、中国語をはじめとするeラーニングサービスを日中両国で展開。中国でのビジネス経験と人脈を生かし、日本企業の中国進出を支援。地方政府および現地企業との戦略提携やグローバル人材育成戦略の豊富なノウハウに定評がある。MIJSでは「海外展開委員会」の委員長を務め、中国やASEAN進出に関する現地との折衝などを担当している。なお、夫人は中国人で、数多くの日本企業の中国法務を代弁する著名な弁護士を父にもつ。