前回に引き続き、マーケティングの観点から日系IT企業が中国ビジネスを成功させるためカギとなるポイントを、10のキーワード(フレーズ)で解説する。今回は後編の5項目として中国政府との関係やコスト、ネットワーク速度など、具体的なビジネスに落とし込むにあたって鍵となるキーワードを取り上げる。潜在市場としても大きな可能性をもつ中国でビジネスを成功に導くヒントとしてほしい。(構成/本紙編集委員 谷畑良胤)
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前篇はこちら政府のバックアップが不可欠な分野
キーワードのその6は「政府の規制に抵触しないか」である。現地でビジネスを展開するにあたって、政府の許可が必要になるかどうかを見定めておかなければならない。とくに、政府が推し進めている政策に当てはまる場合は、当然、国営企業が優先されることになる。そのため日本企業が持ち込むソフトウェアの許可が後回しにされたり、政府から横やりや妨害が入る可能性があるので、事前に規制に該当するかどうかをしっかり調査しておかなければならない。
規制に該当する例としては、検索エンジン、暗号化ソフトなどがある。また、クラウドプラットフォームのように、データセンターの上位レイヤーで制御するような仕組み、つまりグリッドコンピューティングやスマートシティを実現するための制御なども対象となる。これらは国家政策に深く関わる分野であり、こうした製品を日本企業が持ち込んで、一緒にやりましょうといっても、現地企業にメリットがなければ容易に受け入れられることはない。
中国の太子党(中国共産党の高級幹部の子弟など特権的地位にある人)の面々は、IT企業にも多く存在する。彼らが政策と絡んで利権争いをしているなかに、日本企業が割り込もうとしても勝負にならない。
キーワードのその7は「政府のバックアップが必要かどうか」である。これは前出その6の政府規制と絡む話だが、規制に関係するビジネスには政府のバックアップが欠かせない。例えば、通信、電力、交通といったインフラ関係、自動車などの大きな産業分野に関係するビジネスがそれに当たる。IT分野では、ほかに会計、教育、サーバー系などだ。そこに入っていくには、政府というよりも共産党関係者のバックアップが絶対に欠かせない。より具体的にいえば、彼らからバックアップを受けるには、彼らへの心づけとして10%くらい余分な負担が必要となる。それも直接、金銭を渡すのではなく、絵画などモノを通じるやり方で行われている。
機能を絞ってオプションで課金
キーワードのその8は「コスト」。つまり、数のビジネスをするのか、高機能・高価格のビジネスをするのかということだ。これは永遠の命題でもあるが、私は数のビジネスを推す。それはソフトウェアは賞味期限が短いからである。日本企業をみると、高機能で高価な製品を一気に売り込もうとする傾向があるが、中国市場の現状は、まだ、そこまでの機能を必要としていない。それよりも10の機能があるとすれば、当初はそのなかから本当に必要とされる機能に絞り込んで価格を抑えて提供し、追加機能を常に出し続けていくほうがいいと思う。中国人は飽きっぽいので、新しい機能で目先を変えれば喜んでもらえるし、機能を追加することで新たに課金することができる。
キーワードのその9は「ネットワークの速度」である。これは言い換えると、クラウドで提供するのかオンプレミスかということだ。中国の通信事情は日本と比較するとかなり悪いので、社内にサーバーを立てるプライベート・クラウドなら可能だが、社外となるとかなり難しい。ただ、経営層にとっては外出先で参照したり、分析できるかどうかが重要なので、クラウドで提供するには、画面表示や見栄えに凝ったものにするよりも、必要な機能だけを表示するような工夫が必要だ。
ちなみにWi-Fiは中国でも比較的速い。そこで、基本はオンプレミスとして販売し、クラウドで外出先からも使いたい場合は、アドオンのシステムとしてiPadなどのデバイスとWi-Fiの回線をセットにして販売するようなオプションを用意する。といったオンプレミス+クラウドというソリューションが現実的だろう。
クラウドで画面を見るのは現場の一般社員よりも経営層だ。前回も触れたように彼らの判断基準は、見栄えやカッコよさだ。クラウド・オプションは、人と違うことをやっているという自尊心をくすぐることができるので、有力商材になると思う。
キーワードのその10は「どんな業種・業態に導入しやすいか」である。中国のビジネスの基本は、どれだけ安く仕入れて高く売るかだ。もう一つ重要なのは、数多くの販路に対してどれだけ売れるかである。たとえ仕入れが安くできなくても、多くの販路に販売できれば利益は大きくなる。つまり、この二つの原則のどこかに当てはまる業種・業態に売り込むべきということだ。
今のところ、日本企業でそうした展開ができている企業は少ない。中国ビジネスを展開するうえでは、Japan as No.1ではなく、われわれは後発としてビジネスモデルを変えていかなければならない。高機能の製品を持ち込めば彼らが買ってくれるはずといった思い込みは捨てて、中国市場での韓国になる必要がある。韓国人は中国市場をしっかりと研究し、市場のニーズにマッチした製品を魅力的な価格で提供することで、市場シェアを獲得した。日本人も、中国人を相手にビジネスをするには、文化・価値観を理解し、いかに相手を気持ちよくさせて売り込むかを真剣に考えなければならない。
【Profile】WEIC 内山雄輝社長
1981年、愛知県名古屋市生まれ、31歳。2004年3月、早稲田大学第一文学部中国語・中国文学専修卒業後、WEICを設立。人間が言葉を覚える過程の言語学理論をシステム化し、中国語をはじめとするeラーニングサービスを日中両国で展開。中国でのビジネス経験と人脈を生かし、日本企業の中国進出を支援。地方政府および現地企業との戦略提携やグローバル人材育成戦略の豊富なノウハウに定評がある。MIJSでは「海外展開委員会」の委員長を務め、中国やASEAN進出に関する現地との折衝などを担当している。なお、夫人は中国人で、数多くの日本企業の中国法務を代弁する著名な弁護士を父にもつ。