首都圏や関西地区を中心に、全国55か所で保育園「ポポラー」を運営するタスク・フォース(西山悟代表取締役)は、情報システムを駆使してスタッフを最適に配置する。人件費のムダをなくし、IT活用を利益拡大につなげている。同社の西山代表取締役は、どんな仕組みを入れるべきかを自ら考え、システムインテグレータ(SIer)の鈴木商店に構築を発注した。保育業界はIT活用が遅れているが、「あえてシステムの採用に踏み切った」そうだ。今後は、システムをテコに、保育サービスの海外展開に取り組む。
【今回の事例内容】
<導入企業> タスク・フォース保育園の運営やベビーシッターサービスなどを手がける。1989年の設立で、従業員数はおよそ500人。大阪・堂島に本社を置く
<決断した人> 西山 悟代表取締役15年ほど前、保育業界でまだ誰もITを活用していないことをチャンスと捉えて、システムの採用を決めた
<課題>保育園の運営にあたって、国からの補助金を受けなくても利益を上げるために、人件費をはじめとするコスト削減が課題だった
<対策>情報システムを用いて、柔軟な人材配置・シフト管理ができる仕組みをつくり、人件費を4割ほど低減した
<効果>コスト削減に加えて、保護者の要望にきめ細かく対応できるようになり、営業力の強化につながった
<今回の事例から学ぶポイント>保育業は、ITがあまり活用されない業界。だからこそ、システムをうまく生かせば、他社よりも優位に立つことができる
補助金を受けなくても黒字
「ポポラー」は、働くお母さんが多い都市部を中心に保育園を展開。ビジネスモデルの柱としているのは、ITによって、保育士をはじめとするスタッフを最適に配置して人件費を最小限に抑えることと、積極的に営業をかけて、なるべく多くの子どもに「ポポラー」に通ってもらうこと、の二つだ。
このモデルを考えたタスク・フォース(大阪本社)の西山代表取締役は、関西商人の気質をもつ人物だ。「保育業は、国からの補助金を受ける企業が多いけれども、当社は、保育園の運営をビジネスとして成り立たせて、補助金を使わないかたちで利益を出す仕組みをつくろうと考えた」という。ほとんど無縁だったITの活用に着眼した背景には、そうした考えがベースにある。
初代システムの稼働を開始したのは、15年ほど前だ。当時は「保育業界で情報システムを採用することによってビジネスの可能性を広げようと考える人がいなかった。だからこそ、チャンスと捉え、私自身がどんな機能が必要かを考えて、つき合いがあった鈴木商店に開発を任せた」と西山代表取締役は振り返る。試行錯誤で機能を改善したり、およそ3年前には基盤をクラウド上に移したりの経緯を経て、現在利用しているシステムにこぎ着けた。
ポイントは、人材の配置だ。必要なときに必要な場所にスタッフを送って、「人件費を4割カット」(西山代表取締役)しながらも、国が求める数の保育士を現場に配置している。
システムで園児数の変動を調整
「ポポラー」の一日の保育コースは、午前10時の「朝の会」から始まる。その後、園児は自由遊びや昼食、昼寝などをして、おやつを食べたり、散歩に出かけたりする。保護者が子どもを預けることができるのは、丸一日だけでなく、1時間からの短時間利用が可能だ。子どもを預かってもらう時間をきめ細かく選び、それに合わせて料金を払うことが、パートタイムのお母さんをはじめとする保護者の人気を集めているそうだ。
「ポポラー」は、こうして保育園を柔軟に利用することができる制度を用意しているので、曜日や時間帯によって、園児の数が大きく違う。
そこで情報システムを用いて、保育園ごとに、いつ、何人の子どもが登園しているかを把握する。スタッフの配置プランに従って、保育士を出動させる。さらに「仕事が入って、急きょ、子どもを預けたい」といった要望を受けた場合は、同じエリア内の保育園から手が空いているスタッフを借りて対応する。その場合、アレルギー情報など、情報システムに蓄積した園児データによって、急に呼び出された保育士でも子どもの適切な育児管理ができるようにしている。

園児のアレルギーの有無なども情報システムで管理。保育士は、簡単に必要な情報を把握することができる(写真提供:タスク・フォース) 西山代表取締役は、「一日1時間のムダな人件費を削るだけでも、長いスパンでみれば、膨大な利益につながる」と捉え、「いち早くシステムの活用に乗り出したからこそ、『ポポラー』は補助金を必要としていない」と自信をみせる。もともと人材配置から始まったシステムだが、現在は各園の売り上げのリアルタイム集計や社員へのコメント送信などの機能も盛り込んでいて、西山代表取締役にとって欠かせない経営ツールになっている。
アジアで日本型の保育サービス
システムをビジネスに直結する実績を生かして、西山代表取締役はITのさらなる活用に取り組もうとしている。
今後、「事務処理をすべてシステム化し、事務の人件費をゼロにしたい」と意気込む。さらに、アジアを中心とする海外展開にも踏み切る構えだ。日本で培ってきたシステムのノウハウを海外市場にカスタマイズ。「5年以内にアジア各国で日本型の保育サービスを提供するビジネスを立ち上げたい」として、ITをテコに、事業拡大に動いていく。(ゼンフ ミシャ)