総合建設会社の日本国土開発は、太陽光発電所「アンビックスソーラー富里」を今年1月、千葉県富里市に竣工した。このプロジェクトを立ち上げるにあたって、最も大きな課題となったのは、12~13%という太陽光発電所の低い稼働率を前提として、どう採算を合わせていくのかだった。このカギを握っていたのが社会インフラ事業に力を入れている日立システムズで、「採算が合う計算式は手元にある」と日本国土開発に熱烈にアピールした。
【今回の事例内容】
<導入企業> 日本国土開発1951年に土木工事の機械化施工の会社として創業。建設機械の賃貸や土木工事の請負を手がけてきた。今は総合建設会社に成長している
<決断した人> 中尾法生・土木営業部長(左)と加藤健一・開発事業部長同社初めての自社運営の太陽光発電所「アンビックスソーラー富里」の企画を担当。発電所ビジネスを軌道に乗せる。
<課題>自社で太陽光発電所を運営するにあたって、どうすれば効率よく採算を合わせられるのかという課題を抱えていた
<対策>国の「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」のタリフ表(買い取り価格表)からコストを逆算し、利益を明確に算出する計算式を活用した
<効果>およそ20年の運転期間のなかで、確実に利益を確保できる裏づけを得た
<今回の事例から学ぶポイント>国の施策と連動した太陽光発電所ビジネスは、大きなビジネスチャンスを秘めている。発電所の設計から基礎工事の土木建設、維持運用サービスなど幅広い
「どれだけ儲かるか」を算出
再生可能エネルギーの買い取り価格、日照時間、土地の値段、高圧線の敷設状況、太陽光発電パネルの価格──。これらの要素を組み合わせて、「あなたの場合、稼働20年でこれだけ儲かります」と、正確に損益を割り出すことが太陽光発電ビジネスを手がけるうえでは欠かせないポイントになる。
日本国土開発は、再生可能エネルギー施設の建設需要に着眼して、日立製作所などの重電企業と協業しつつ、施設に関わる建設や土木工事のビジネスを拡大してきた。だが、顧客からは、「再生可能エネルギーはどれくらい儲かるか」を明示する根拠とノウハウの有無を確認されるケースが目立ってきた。
そこで日本国土開発は、「それなら、まず自分たちで手がけてみよう」(中尾法生・土木営業部長)との判断に至り、SIerの日立システムズと組んで、今年1月、千葉県富里市に太陽光発電所「アンビックスソーラー富里」(写真参照)を竣工した。発電出力約2000kW、太陽光発電パネル1万920枚を並べた巨大なメガソーラー発電所である。日本国土開発の独自事業として太陽光発電所を建設したのは、今回が初めてだ。
自社での太陽光発電所を建設するにあたって、欠かせないのは太陽光発電のノウハウである。「総合建設会社として、土木・建設のプロではあるが、発電所そのものの運営ノウハウはどこからか学ぶ必要があった」(加藤健一・開発事業部長)という。日立製作所が手がける発電所の建設プロジェクトに参加したつながりがあって、日立グループで発電所を含む社会インフラ事業に意欲的に取り組んでいる日立システムズと組むことにした。日立製作所との今後のビジネスや、日立システムズが社会インフラビジネスの重点事業として太陽光発電を位置づけていたことから日立システムズへの発注を決めた。
約20年間の保守サービスを担う
日立システムズと日本国土開発は設計と調達、建設を一括して請け負う「EPC契約」を結んだ。日立システムズはEPC事業者として、完成した太陽光発電所を日本国土開発に引き渡し、保守サービスも手がける。日本国土開発は引き渡された発電所のスイッチを入れるだけで、向こう20年間、確実な収益が得られる「フルターンキーソリューション」方式で設備を手に入れた。千葉県富里市の土地は、もともと日本国土開発が所有していたもので、発電した電力の売却先である東京電力の高圧線も近隣にある。そうした状況を勘定に入れて、日立システムズは「このような根拠で、日本国土開発は向こう20年間でこれだけ儲かります」ということを明示した。
太陽光発電所を経営するにあたって難しいのは、稼働率が低いことである。夜間は停止、雪が積もっても停止、曇りで発電量が下がり、真夏は過熱を防ぐために発電効率が下がるなどで年間の稼働率は12~13%といわれている。日立システムズの横田平朝・ネットワークソリューション本部第一部主任技師は、「電力の買い取り価格とコストとを逆算して利益を出す計算式をすでにもっている」と自信を示す。同じく同社の中村和夫・ネットワーク・サービス営業本部第三営業部第三グループ部長代理も「縦に長い日本列島で、どのあたりに、どれだけの規模の太陽光発電所を建設して利益がどれだけ出るのかも高い確度で算出できる」と話す。だからこそ、日立システムズはEPC事業者として自信をもってフルターンキーで納入し、保守サービスも請け負う契約を結んだのだ。
日本国土開発は、自社運営の発電所の「アンビックスソーラー富里」の竣工をモデルケースとして、今後も太陽光発電所の基礎工事などの土木・建設の受注に力を入れていく。日立システムズはEPC事業者として培ったノウハウを武器に、全国約300か所に展開する保守サービス拠点を生かした保守サービスも組み合わせることで、同社が注力する社会インフラ事業の目玉として伸ばしていきたいと考えている。(安藤章司)

太陽光発電所「アンビックスソーラー富里」の外観