クラウドの広がりにつれて、データセンター(DC)の需要は年々高まるばかりだ。こうした動きと連動して、各種ITリソースの運用を効率化・最適化するためのソリューションが急速に普及してきたが、実際には、DC運用の安定性とコストを大きく左右する重要な要素である「エネルギー管理」に対する注目度は低かった。しかし、東日本大震災以降の電気料金の値上がりにより状況は一変した。インテルは、国内ITベンダーのニスコムと協業して、この新たな市場の本格的な開拓を始めた。DC運用の最適化にとどまらず、クラウドビジネスのあり方を大きく変える可能性もある。(本多和幸)
DCの電力設計にはムダがある
DC内のITリソースの監視とエネルギー管理を統合して、運用の効率性とコストを最適化するソリューションとして、「DCIM(Data Center Infrastructure Management)」が注目を集めつつある。DCの消費電力の大半を占めるのはサーバーだが、従来、これらのエネルギー管理は、ITシステム部門とファシリティ部門のどちらの管轄になるのかグレーな部分で、積極的な対策が取られていなかった。IDC Japanが2013年11月に発表した調査結果では、DCIMを導入している国内DCはわずか0.5%にしか過ぎないが、東日本大震災後の電気料金の値上げは、DCの運用に大きなコスト負担を強いており、DCIMのニーズが高まっているのだ。
そんななか、DC運用管理サービス事業者で、受託システム開発を手がける中堅SIerでもあるニスコムは、インテルの「Data Center Manager(DCM)」をベースにしたDCIMソフトウェア「DC Smart Assist」を自社開発し、昨年12月に提供を開始した。
「DCM」は、DC内のサーバーなど、各種デバイスの消費電力や温度を管理するミドルウェアだ。主にSDK(ソフトウェア開発キット)のかたちで提供される。APIを呼び出すだけでさまざまな機器を管理対象にでき、マルチベンダー環境に対応しているのが大きな特徴だ。デバイス内にもともと搭載されているセンサを利用して、管理用コントローラから情報を収集する仕組みで、デバイスの状態をリアルタイムに直接モニタリングできる。部屋、ラック列、ラック、サーバー単体など任意にグルーピングして、グループごとに消費電力の上限を設定することも可能だ。これにより、ラック単位やサービス単位での消費電力分析・制御ができるようになる。
ニスコムの三石剛史・執行役員は、DCIMを自社開発する決断をした経緯について、「北米の市場を調査したところ、『DCM』がDCIMのベースとしてスタンダードになっていることはわかったが、日本に導入できそうなソフトは見当たらないし、すでに日本で展開されていた外資系の大手電源管理ソリューションベンダーの製品も非常に高額で、ユーザーのニーズと適合していないと感じた。極力シンプルに『DCM』を使いながら、足りない機能を個別にカスタマイズできるリーズナブルなDCIMソフトを提供すれば、日本の市場ニーズに合うし、アーリーアダプタにリーチできるタイミングだと考えた。将来、IAサーバーに実装されるテクノロジーをいち早く取り入れられるというメリットもある」と説明する。
一方のインテルも、近年、国産ベンダーとの連携を深め、日本国内でのDCMの本格的な普及に力を入れている。高木正貴・ソフトウェア&サービス・グループ データセンター・ソリューションズ ビジネス・デベロップメント・マネージャーは、ニスコムとの協業について、「市場をいっしょにリードしてくれる企業。日本はカスタマイズやサポートを重視するユーザーが多いが、それにきちんと応える技術力やノウハウがある。DCの現場の状況や、ユーザーの生の声をキャッチアップしているのも心強い」と、新たなポテンシャルを感じている。
大手SIerなどをDCIMの販社に
では、こうした技術の導入によって、具体的にDCの運用にどんな変化が現れるのだろうか。直接の効果としては、1ラックあたりのサーバー数を増やし、DCのユーザーが契約ラック数を削減することができる。日本では、サーバーの最大消費電力量である定格出力を基準に1ラックあたりの積載数を決めることが多いが、実際は定格出力の半分ほどしか使わないことがほとんどで、ムダの多い電源設計になっている。これには、DCのファシリティ部門とIT部門が縦割りで、お互いが定格出力を基準に余裕をもって設備やシステムをサイジングしようとするために、さらにムダが大きくなってしまうという構造的な問題が横たわっている。DCIMは、両者が一体となってエネルギーマネジメントに取り組む基盤にもなる。
さらにニスコムの三石執行役員は、「DC自体、実際には契約電力の半分くらいしか使っていないことが多い。DC事業者やIaaS、ホスティングサービスのプロバイダはそれをサービス料金に転嫁しているので、儲けの種になっている。しかし、DCIMのようなソリューションをユーザーが知ってしまうと、電源管理のルールは変わらざるを得ないだろう」と指摘する。インテルの高木マネージャーも、「毎月の消費電力に応じてサーバー利用料を変動させるサービスを提供する事業者も出てきている」と話す。つまり、現状、クラウドでコンピューティングリソースを利用するサービスは、契約するリソースの規模に応じて定額の料金を支払う形態が一般的だが、実はDC側の電力設計のムダがコストとして転嫁されているということだ。DCIMが導入されれば、それが電力使用料に応じた従量制の料金体系に変化していく可能性がある。
当面、両社がユーザーとして訴求していくのは、DCのユーザーや、自社でデータセンターをもっているクラウドサービス事業者などだ。サービス単位でコンピューティングリソースの消費電力監視・制御ができる点を生かし、まずは、消費電力が自らの事業にリスクとして直接反映される企業に重点営業をかける。また、ニスコムは「DC Smart Assist」の販路の4割ほどを間接販売にする意向。ゼネコンや電機メーカー、大手SIerなど、これまでDC運用とは関連が薄かった企業からも協業の提案があるという。三石執行役員は、「ファシリティの分野とITの分野、それぞれでエネルギーマネジメントが喫緊の課題となりつつあることの証明」と力を込める。
DCIMは、クラウドを支えるDCのコンピューティングリソースの稼働にかかるコストをクリアにして、料金体系のあり方に大きな一石を投じる可能性がある。ソリューション単体の市場規模だけでは語りきれない影響があるといえそうだ。

インテルの高木正貴マネージャー(右)とニスコムの三石剛史執行役員