中国に慎重な態度を示す日本のITベンダーが存在する一方で、世界的な大手ITベンダーは、中国市場に引き続き積極的だ。今後も継続して投資する姿勢を示したり、中国オリジナルの施策を打ったり、戦略商品を一気に中国主要都市に広げる販売戦略を推進したりするITベンダーがいる。EMCとマイクロソフト、そしてオラクルといった大手ITベンダーの中国戦略の最新事情を紹介する。
(再編集/『週刊BCN』編集部)
EMC
「Software-Defined-Storage」を強調
EMCは、3月5日、報道関係者向け戦略説明会「2014新春メディア交流会」を北京で開催した。
EMCの中国市場におけるシェアは、2006年から2013年まで8年連続で拡大。この間の年平均成長率(CAGR)は26%に達するという。米本社が掲げるグローバルビジョンと戦略を中国でも推進。中国市場への継続的な投資と、中国企業との協業にも力を入れたことで、二級・三級都市の開拓に成功したことなどが、成長につながっている。
グローバルエグゼクティブ副総裁で大中華区総裁の叶成輝氏は、今回の説明会で2014年の中国市場戦略を発表した。「ユーザー企業がビジネスモデルを変革するためには、ソフトウェアがこれまで以上に重要になる」という考えを強調したうえで、「ハイブリッドクラウド」「モバイル開発」「クラウド・コンプライアンス&ガバナンス」そして「ビッグデータ」分野の製品開発に力を入れることを宣言した。
EMCが今回発表した内容で注目すべきポイントは、「アライアンス戦略」だ。インフォメーションインフラストラクチャの分野で、ヴイエムウェアやピボタルとともに企業連合を形成。ユーザー企業が自社の要望に合わせて、自由に選択できる高水準のITインフラストラクチャを、三社の共同ソリューションとして提供し、他社と差異化を図る。さらに、自社管理ソフトで、複数メーカーのストレージを統合管理する「Software-Defined-Storage」や、仮想化ストレージにOSやアプリケーションソフトを組み込んだストレージもアピールした。
現在、データセンターで運用されているシステムは、クライアント/サーバー(C/S)型の「第二のプラットフォーム」で運用されるケースが多いが、今後はクラウドを前提とする「第三のプラットフォーム」がメインになることは確実だ。叶氏は、「グローバルでみたIT産業のトレンドは、第三のプラットフォームへの移行だが、中国のスピードは米国に比べて緩やか。中国では第二と第三のプラットフォームの並行利用がしばらく続くはずだ」と説明した。加えて「EMCは、中国における第三のプラットフォームへの転換をリードすると同時に、現在のメインインフラである第二のプラットフォームにおいても市場シェアの拡大につなげる」と語った。EMCの「Software-Defined-Storage」では、第二のプラットフォームと第三のプラットフォームの両方のアーキテクチャを、一つの階層で管理することができるという。この点をアピールしていく考えだ。(方秀珍、『SP/計算機産品与流通』2014年3月10日第3期第17巻より)

2014年の戦略を発表したEMCの叶成輝氏マイクロソフト
「XP」サポート終了後もユーザーを支援
マイクロソフトは、3月3日、「潜在力を開放する――『Windows XP』時代を越え、新時代へ突入」と題したホワイトペーパーを発表した。Windows XPからWindows 8への移行を促進することが目的だ。
全世界でWindows XPのサポートが終了したが、中国では独自の施策が動いている。
Windows XPのサポートが終了する約1か月前の3月7日(中国時間)、テンセントとマイクロソフトの中国法人(マイクロソフト中国)、レノボの3社は報道関係者向け説明会を共同で開き、「Windows XPユーザーサポート計画」を発表した。OSをアップグレードする前の中国ユーザーに対して、セキュリティ保護およびウイルス対策のトータルサポートを提供するというものだ。マイクロソフト中国によると、テンセントなどの中国ITベンダーは、Windows XPのユーザーに対してサポートサービスを継続しているという。マイクロソフト中国も、中国の各公共機関と協力し、2015年7月14日まではWindows XPユーザーに対してマルウェア対策ソフトの定義ファイルと更新プログラムを提供する。これだけでなく、過去には2013年10月1日から2014年4月8日までの間、政府機関・教育機関のユーザーを除き、中国大陸の中小企業に対して、Windows XPとOffice 2003のアップグレードパッケージを出していた。この期間中にWindows 8とOffice 2013の購入累計ライセンス数が指定値を超えると、アップグレードのサポートサービスやハードウェア製品をプレゼントする施策も展開した。
マイクロソフト中国の大中華区副総裁兼市場戦略部総経理で大中華区主席クラウドコンピューティング戦略官の謝恩偉氏は、「新技術を受け入れることで、ユーザー企業はWindows 8がもたらすメリットを実感できる。政府機関だけでなく、企業も変革が主要なテーマ。新技術は新しい環境でこそ生きる。変化に対応するために、古い技術から脱離してまったく新しい時代に突入すべきだ」と話し、Windows 8への移行を強く呼びかけた。(余文、『SP/計算機産品与流通』2014年3月10日第3期第17巻より)

Windows XPユーザーに向けた支援プログラムを発表するテンセント、マイクロソフト中国、レノボの幹部オラクル
SDN搭載の仮想化基盤システムを発表
オラクルの中国法人(オラクル中国)は、3月11日、クラウドの構成を簡素化する仮想環境に必要なハードウェアとソフトウェアを一体化した仮想化統合基盤システム「Oracle Virtual Compute Appliance」を発表した。
「Oracle Virtual Compute Appliance」は、仮想環境でアプリケーションを簡易・迅速に実装できるインフラ製品。ユーザー企業は、電源を入れてから約1時間で本番環境を準備でき、仮想マシンを実行するための時間は数分という。「Oracle Solaris」や「Oracle Linux」のほか、他社のLinuxディストリビューション、Windowsでも動作するので、幅広いアプリケーションとOSが混在するインフラストラクチャにも最適な統合基盤システムだとオラクル中国はPRしている。
仮想化コントローラ「Oracle Fabric Interconnect」で構成されているので、「Wire━Once(配線は初回のみ)」でソフトウェアによって定義されたネットワークやストレージのアーキテクチャを提供する。ユーザーは手動でケーブルを整備する必要がなく、ネットワークの配置や設定変更が迅速・柔軟になり、手作業によるトラブルリスクと、時間ロスを防ぐことができる。
オラクル副総裁で大中華区システム事業部総経理の梅正宇氏は、「オラクルの統合システムのラインアップは、高性能な『Exaシリーズ』から『Oracleデータベース』、そして新たに発表した『Oracle Virtual Compute Appliance』がある。Linuxの業界標準に基づき、標準的な商用サーバーとInfiniBand(インフィニバンド)のネットワークを接続することで、時間とコストを抑えられる。『Oracle Virtual Compute Appliance』は中小企業を中心に浸透すると確信している」と話している。また、システム事業部大中華区販売コンサルティングエグゼクティブディレクターの潘楡奇氏は、このように説明している。「クラウドやビッグデータ、IoT(Internet of Things)、そして仮想化といった技術変革の時代、ユーザー企業は、新たなアプリケーションを柔軟に構成できるインフラを求めている。『Oracle Virtual Compute Appliance』は、高い拡張性と信頼性を併せもつ仮想環境を提供し、企業が抱える業務課題を解決する」。
発表では「Virtualization and Cloud Made Simple and Easy with Oracle’s Latest Engineered System」をテーマに、オラクル製品を展示するイベントを3月下旬から北京、上海、広州、成都、南京、西安などの都市で順次開催。統合インフラ製品を、中国で一気に普及させようとしている。(余文、『SP/計算機産品与流通』2014年4月第5期第17巻より)

仮想環境に適した新統合基盤システムの優位性を語る梅正宇氏 『週刊BCN』は、季刊発行(3月、6月、9月、12月)する中国特集号で、中国ITベンダーの動向や欧米系ITベンダーの中国でのパートナービジネス戦略情報を発信しています。そのなかで、BCNの中国子会社・比世聞(上海)信息諮詢は、中国IT業界のパートナービジネスの領域でメディア・コンサルティングサービスを展開するSPと協業し、情報収集・発信体制を強化。その一環として、SPのコンテンツの一部を活用しています。この記事は、SPが発行する中国IT専門メディア『計算機産品与流通』(「コンピュータ製品と流通」の意味)が掲載した記事を、BCNが翻訳・再編集したものです。